ヘリウム(He)が足りない状況が続いている。2012年11月に東京ディズニーランドがヘリウムを詰めた風船の販売を中止したほか、ガス販売会社が相次いでヘリウムの供給を一時停止する事態に追い込まれた。いずれもヘリウムの安定調達が難しくなったことによる。ヘリウムの埋蔵量は、既存技術によって生産可能な範囲で約70億m3。現在のペースで消費を続ければ25年後に枯渇する。消費量を大幅に減らすとともに、枯渇するまでに新しい生産技術を確立しなければ、近いうちに使えなくなる日が訪れる。ヘリウムについて調べた。

光ファイバや半導体の製造に利用

 ヘリウムの工業原料としての特徴は、特異な性質のために代替が難しい用途が数多くあること、供給源が限られていることにある。この意味で、水素(H)に次ぎ2番目に多い元素であるにもかかわらず、レアアースと同じ供給問題を抱えるリスクがある。

 特異な性質の一つは、沸点が約-269℃と元素の中で最低であること。比熱が大きく熱伝導率が高い特徴もあって、冷却用途に適している。光ファイバの製造工程において、溶融して成形したガラスの冷却、半導体製造のスパッタリング工程で高温になったSiウエハーの冷却などに使える。超伝導コイルを利用するMRI(核磁気共鳴画像法)機器やMEG(脳磁計)などの医療機器でも欠かせない製品がある。また、原子量は小さく、水素と異なり不活性で安定していることから、気球や風船に詰めても安全である。さらに直径が小さいため気密性の検査に利用されている。肺に吸い込んで話すと、甲高い「ドナルドダッグ・ボイス」になるのは、音が空気中よりも速く進む性質による。

 冷却だけを目的とする用途では窒素(N)、不活性だけを生かす場合はアルゴン(Ar)など、代替元素は存在する。しかし、複数の特徴を生かした光ファイバや半導体の製造などの用途ではヘリウムを代替することは難しいという。