自動車会社の経営が円安で潤い、注目を浴びている。円ドルレートは重要な要因だが、自動車会社の経営陣や現場から将来を見据えて、IT対応の話が多く聞こえるようになった。トヨタ自動車の豊田章男社長は、米セールスフォース・ドットコムや米マイクロソフトと矢継ぎ早に提携して、クルマとITを融合させた新サービスを目論む。ホンダもIT事業を「本部」に格上げし、「テレマティクスの取り組みを増やす」(伊東孝紳社長)という。さらに日産自動車は、電気自動車「リーフ」のバッテリー状態をITで把握し、性能を分析するビッグデータ・プロジェクトを進めている。

 今や産業界を見渡すと、IT化が成長のキーワードだ。水道や電気といったインフラ事業においても、設備の性能に加えて、家や街ごと効率よくITで管理する「スマートシティ」が注目を浴びている。さらにビッグデータやクラウド、スマートフォンなど技術変革の波を受けてIT産業も大きな成長期を迎えている。

 これだけIT化の風が吹けば、企業でもITに関わるシステム部門やエンジニアらが注目を浴び、やりがいも待遇も高まるはず。そんな思いが先立つが、実際の現場はなかなか苦労が多いようだ。

 苦労の内容は幾つかに分かれる。先ずは仕事量の増大。社内システムのクラウド化や、ITを使った新サービスプロジェクトなどどんな仕事の名称にも「IT」が付いて一気に忙しくなっている。取り組みを社外に発表するとアナスンス効果も高いため、期限を区切られることも多く、精神的にも忙しさが高まる。

 次は職場環境の変化。特に製造業ではIT関連の仕事は余り注目を浴びていなかった面がある。ところが、クルマもインフラもIT化が不可欠になり、人事異動でスタッフは増える。また中途採用も実施。社外の協力会社も増えるというように急激な変化に見舞われている。プロジェクトは大きく、やりがいもあるものの、仕事の進め方や人間関係で気苦労も多いという悩みから離れられない。

 3つ目は、プロとしてより、会社員としても微妙な立ち位置だろう。自動車にしても電機にしてもIT化の目的は、顧客へのソリューション(問題解決)提供。そのためグループ力を結集して、対応する動きが強まっている。そこで微妙になるのが、大手企業グループなら大概は抱えるIT子会社のあり方。最近は、親会社に出向する場合もあれば、本社がやたら頼ってくるようになったりするケースもある。これまでは親会社のシステム管理などを「受け身」の姿勢でこなすだけだったのが、新サービスの提案やプロジェクトの運営を任されたりするようになり、立場は一気に変わる。とはいえ、どこまで積極的に旗を振っていいものか。何かのきっかけで、出しゃばったマネをと言われないか、気になるのが人情だろう。

 日経情報ストラテジーはこうした問題意識に立って、IT業界・関係者を中心とする「社風改革」について取材を進めている。これまでIT職場の課題や問題については、「メンタルヘルス」などの個人向けの対応策が多く語られていた。しかしこれからは視点を大きく、産業の変化に対応して、風土改革という組織の観点で語ることが大切ではないか。IT産業の急激な変化を受けて、構造的な対応策が大切な時期に入っている。

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