一方、2013年1月24日から中国で売り出した60型テレビには、「RadioShack」(レディオシャック、中国名・睿侠)のブランド名が付けられた。RadioShackは、米テキサス州に本拠を置く家電量販チェーンで、2012年12月、フォックスコン傘下で台湾、中国で家電量販店を展開するCyberMart(賽博數碼)と中国販売で提携。同月、上海に中国1号店をオープンした。ただ、60型テレビの販売は目下、ネット通販サイトの「TMALL」(天猫)のみで行っている。

 スペックはフルHD(走査線1080本)で、LEDバックライトを搭載。3つのセット価格を用意しており、ソニーのブルーレイディスク・プレーヤーとのセットは9000元(1元=約15.1円)、同じブルーレイディスク・プレイヤーにサラウンドスピーカーを付けたホームシアターセットは9999元、米Apple社の7.9型タブレット「iPad mini」とのセットは1万499元となっている。

 CyberMartが60型テレビの中国国内での販売を発表した直後、RadioShackのサイトでは、同機のパネルが堺10世代工場で生産した輸入品であることに加え、「富士康製造」と記すことでフォックスコンが中国で展開している名称「富士康」を前面に出してアピールしていた。フォックスコンの名前が中国ではそれだけ「ブランド」として認識されているということである。ところが2013年1月24日の発売日になると、「富士康製造」の文字が外されていた。黒子のEMSとして、ブランド各社への配慮が働いたのだろうことは想像に難くない。

 さて、中国でもフォックスコンの60型テレビが売り出されたことを受け、私の気持ちはこのテレビの購入にぐっと傾いた。EMSの動向をウォッチする仕事にも役立つし、話のタネにもなる。ただ、できれば実機を見た上で決めたい。そこで、発売日翌日の同月25日、上海都心部からバスで小一時間かけて、上海のコリアタウンと言われる龍柏新村にあるRadioShackの1号店に行ってみた。60型TVのサンプルが展示してあるだろうと踏んだためだ。

 フォックスコンは、RadioShackとテレビを売り出したCyberMart以外にも、流通大手の独Metro社と共同でMetro傘下の家電量販チェーン「Media Markt」(万得城)を2010年から中国で展開。Media Markt1号店を、かつて伊勢丹が入居していた上海の一等地、淮海中路の高層ビルに1~5階を占拠するほどの規模で出店している。これに比べると、RadioShackの1号店は、「町の電気屋さん」といった趣で、注意深く番地を追っていかなければ通り過ぎてしまうほどの店構えだった。うわさの60型テレビは、その狭い店の中央に鎮座していたが、地味な立地と店舗は、やはりブランド各社に対する気遣いだろうか。もっとも、店舗の威容を誇ったMedia Marktは、Metro側が2013年1月16日、販売不振を理由に中国市場からの撤退を表明している。

RadioShack中国1号店に展示されていたフォックスコンの60型テレビ