私がオートメーション産業に従事して、既に30年以上が過ぎました。30年前のオートメーション機器と現在のオートメーション機器を比較すると、その機能の進化には驚嘆します。

 このオートメーションという言葉は、1940年代に米Ford Motor社がAutomatic Operationから作った言葉だそうです。狭義には、製造業のオートメーション、つまりファクトリ・オートメーションを指していましたし、その中でも自動制御技術を意味していたことが多かったと思います。

製造現場のオートメーション化はひと区切りしたのか

 自動制御技術は1950年代に機械式の制御機器が登場してから、マーケットに浸透していくわけですが、当初オートメーション技術(多くは工場現場の自動制御技術)を進化させることは、製造業を強くすることに直接結び付いていたため、たくさんの最新技術、そして最新技術の採用を促すための様々なキーワードが生まれました。

 例えば、CIM (Computer Integrated Manufacturing)*1という言葉が製造業に関わる人たちの間で盛んに討議されていたのは1980年代の後半から1990年代にかけてでした(図1)。マイクロプロセッサをはじめとしたコンピュータ技術の発展をベースとして、コンピュータが得意とする計算機能、通信機能を、製造プロセスを含めた企業の生産、販売活動の中に取り込んでいきたいという願望があったわけです。

図1●1980年代に提案された工場のCIMモデルの例
『MAPニュース Nov.1992 38』(国際ロボット・FA技術センター発行)の図を描き直したもの。この当時議論されたネットワークの中には現在使われていないものもあること、および図の中にEthernetの表示がないことに注意いただきたい。
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*1 CIM (Computer Integrated Manufacturing) 元々は、生産部門と本社や販売部門をネットワークで結び、受注情報などのデータの共有化などにより、生産と販売のリードタイムや在庫の削減を目指す生販統合システムのこと。

 その後に提唱されたSCM(Supply Chain Management)*2によるロジスティック(物流)システム、または情報ラインの整備を見ると、人間ではできない範囲の仕事を、性能が飛躍的に向上したコンピュータの助けを借りながら実現させようとしていました。製造現場の自動制御ではありませんが、CIMもSCMもその目標はオートメーション(Automatic Operation)の1つの実現形態ではなかったかと感じています。

*2 SCM(Supply Chain Management) 需要予測、生産計画・スケジューリング、供給計画、輸送計画などの情報やネットワーク技術を活用し、原材料や部品のサプライヤー、生産工場、物流拠点、顧客の間のマテリアルフロー(モノの流れ)、キャッシュフロー(金の流れ)、インフォメーション・フロー(情報の流れ)を最適化しようという考え方。

 今振り返ると私たちが1990年以降にCIMとかSCMを話題にしていた背景には、1980年代に流行したFMS(Flexible Manufacturing System)などを経て、製造現場のオートメーションはある程度目安がついたとの了解あったように思えます。だが、本当に製造現場のオートメーション化はひと区切りしていたのでしょうか?

 実は1990年以降も工場現場のファクトリ・オートメーション技術はゆっくりとながらも着実に進化しています。そして、工場現場のオートメーションに再び注目すべき時代が来ています。この連載では、工場現場のオートメーション技術の中で、特に近年注目を集めている産業用オープン・ネットワークの技術、そしてその中でも現場機器と制御機器間のネットワークについて、 ①オープンな工場現場ネットワークが求められる理由 ②どのような工場現場ネットワークがあるか ③オープンな工場現場ネットワークにより広がるアプリケーション について説明していきます。

 実際には、工場現場ネットワークの分野はフィールドバスと呼ばれる現場通信だけでなく、制御機器間通信とか、上位通信にも広がっていますので、その分野も含めながら説明を進めていきます。