日本のエレクトロニクス・メーカーがうらやむほどの高収益企業に成長した韓国Samsung Electronics社。吉川良三氏は,1994年から約10年,同社に常務として在籍し,韓国がIMF(国際通貨基金)の管理下に入ったどん底の時期から,世界の優良企業へ発展する様をつぶさに見てきた。その目に現在の日本メーカーはどう映ったのか。同氏が3年前に鳴らした警鐘を2回にわたって紹介する。(聞き手は内田 泰,佐伯 真也)

─Samsung社や韓国LG Electronics社といった韓国勢が世界市場で健闘している要因として,ウォン安や法人税率の低さなど,周辺環境の優位性を挙げる声が日本にはある。

よしかわ りょうぞう 1964年に日立製作所に入社し,CAD/CAMシステムに向けたソフトウエア開発に従事。1989年に日本鋼管(現JFEホールディングス)へ移り,エレクトロニクス本部開発部長として,次世代CAD/CAMシステムの開発を手掛けた。1994年からSamsung社の常務として,CAD/CAMを中心とした開発革新業務を推進。帰国後,2004年から現職。(写真:中村 宏)

 それは正しくない。

 ウォン安に関しては,韓国内ですべての部材を調達していれば競争力につながる。しかし現状,韓国メーカーは,電子部品や材料の多くを日本メーカーから購入しているため,ウォン安効果は相殺される。優位性はないといっていいだろう。

 一方,法人税率については,日本が実質40%程度,韓国が実質25~26%程度であり,確かに有利といえる。ただし,法人税の議論は,営業利益が出た後の話。営業損益が赤字の日本メーカーが,法人税における15ポイント程度の差を競争上の要因として挙げることに意味はない。