アナログ半導体への注目度が高まっている。スマートグリッドや電気自動車、パーソナル・ヘルスケアといった、アナログ技術がカギを握る応用例が相次ぎ登場しているからだ。
 アナログ業界はこの先どこへ向かうのか。大震災を経験した日本をどう見ているのか。業界の重鎮であるAnalog Devices社の創業者で会長のRay Stata氏に、東日本大震災から程なく聞いたインタビューを紹介する。(聞き手は田野倉 保雄=日経エレクトロンクス編集長(当時)、大下 淳一)

─アナログ業界に限らず、エレクトロニクス業界全体にとって中国市場の重要性が高まっています。中国にはよく足を運んでいるそうですね。

Ray Stata 米Massachusetts Institute of Technology(MIT)在学時の同級生だったMatthew Lorber氏と共同で、1965年にAnalog Devices社を設立。1971~1991年に同社 President、1973~1996年にCEOを歴任。会長職は1973年から務める。教育や連邦政府関係の活動にも積極的に携わっている。(写真:栗原 克己)

 2年に1回ほどのペースで訪れています。今、どのように我々の存在を中国に根付かせ、どのような事業を展開できるかを見極めようとしているのです。まずは、欧米や日本で築いてきた評判やブランド・イメージを、中国の産業界や大学に広く浸透させることが課題になります。

 人材面での中国の重要性も見逃せません。半導体をはじめとするハイテク産業において、成功の根幹を支えるのは人材に他ならない。中国の人材には我々にとって大きな魅力があり、その観点から大学との関わりを深めています。例えば、学生が参加する機器のデザイン・コンテストを支援するなど、教育プログラムに関して10を超える大学と連携しています。デザイン・コンテストでは「短期間でよくこれだけのものを仕上げたな」と、現地の学生の能力にしばしば感心させられます。

 中国に対して、エレクトロニクス産業の関係者はともすると“脅威”を感じているように映ります。すべてのパイを中国に持っていかれるのではないか、と。私はそうは思いません。中国の良さ、例えば低コストの製造技術といった長所をうまく取り入れながら、共に発展できる関係を築くことが重要でしょう。

 企業にとって、真の脅威は社内に存在します。(米Intel社の創業者の一人である)Andrew Grove氏が「絶えず変化し続ける企業だけが生き残る」と語っていますが、同感です。産業界の競争環境は常に目まぐるしく変化しており、それに対応しなければ生き残れない。その視点に立てば、中国は競合すべき相手ではなく、協調すべき相手なのです。