日経テクノロジーオンライン

プロジェクション・マッピングと“どこでもディスプレイ”

2013/02/06 06:00
竹居 智久=日経エレクトロニクス

 「何を今さら」と思われるかもしれませんが、「プロジェクション・マッピング」と呼ばれる表現手法に注目しています。昨年秋にAmon Tobinによるプロジェクション・マッピングを活用したライブ・パフォーマンス「ISAM Live」(公式のYouTube動画)を見て、表現手法としての可能性にほれ込んでしまいました。

 プロジェクション・マッピングは、建築物などの立体物の形状に合わせて映像を投射し、あたかも立体物の姿が変わるかのように表現する手法です。立体物の輪郭だけを光らせたり、色や模様を変えたりすることで、平面に映像を投射しているのとは異なる映像体験が得られます。国内では、2012年9月に東京駅・丸の内駅舎で開催されたショー「TOKYO STATION VISION」が、プロジェクション・マッピングという言葉を広く知らしめました。筆者も恥ずかしながらそれで知った口です。

 現在のプロジェクション・マッピングは、投射対象となる立体物の正確な形状測定や、それに合わせたプロジェクターの出力の調整など、事前に行う設置や調整などの地道な作業がとても重要です。ただし、「対象物の形状をプロジェクターの出力にフィードバックする」という発想は、いろいろな用途に生かせると思っています。

 その一つとして思い当たるのが、“どこでもディスプレイ”です。『日経エレクトロニクス』は2010年8月9日号に、携帯型プロジェクターや短焦点プロジェクターの技術動向をまとめた「どこでもディスプレイ」という特集(記事紹介ページ)を掲載しましたが、プロジェクション・マッピングの発想を組み合わせることにより、得られる体験の質が大幅に向上しそうです。

 例えば、(1)距離画像センサなどを使って投射対象の正確な形状を測定する、(2)ユーザーの視点の位置を計測する、(3)投射対象の形状とユーザーの視点位置に合わせて出力(どの画素にどの色を投射するか)を変更する、といった機能をプロジェクターが備えれば、映像を見るユーザーにとって空間すべてがディスプレイであるかのように感じられる世界が近づきそうです。さらにカメラを使って投射対象物の色や表面状態を検出し、出力する各画素の色を調整すれば、映像品質もある程度は高められる可能性があります。

 実現までの技術的な障壁は高いでしょうし、“どこでもディスプレイ”へのニーズがどれだけあるかも不透明です。しかし、慶応義塾大学 メディアデザイン研究科の稲見昌彦教授が手掛けた「透明プリウス」(プロジェクトの紹介ページ)のように、一般的な物体に自然な形で映像を映し出すことを求める応用例も登場しつつあります。いつの日か、カメラや距離画像センサと高度な画像処理機能を備えた「アダプティブなプロジェクター」が様々な場面で使われる世界が訪れるだろうと予想しています。