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日本の家電・脱負け組への処方箋、未来はバックステップでつくれ

2013/02/06 07:00
生島 大嗣=アイキットソリューションズ

 先日あるところで聞こえてきた会話です。

「日本はもっと技術を磨かなければならない」「海外メーカー○△社のテレビの画質なんて専門家によるとまったくなっていないらしい」「テレビ事業は諦めてはいけない。守り抜かないといけない」熱い思いは伝わってきますが、諸手を挙げて賛成はできかねるというのが私の正直な感想です。

B2CがダメだからB2Bなのか?

 こういった意見がある反面、先日パナソニックの津賀一宏社長は、1月に開催された展示会「CES」(2013 International Computer Electronics Show )の会見で「将来、パナソニックは自動車メーカーになるかもしれません」と自動車事業を拡大する意思について語ったと報道されています。パナソニックは重い腰を上げてやっと新規事業へと大きく舵を切ったということでしょう。

 新政権になってから、日本の成長戦略をどのように作り上げるかという話がマスコミを通じて聞こえてきますが、やはり日本の技術的な優位を基盤にしている話が多い印象を受けるのです。

 私は新規事業の育成などの切り口がこれからは重要になる、いやそれどころか、そこに注力して新しいビジネスを切り開くことも必然になってくるのではないかと思っていました。しかし、なかなか過去の成功体験に縛られてそこから脱しきれないもどかしさも感じていました。

 そして、韓国などの新興国に従来のお株を取られたことを実感できた日本企業は、やっとこの方向に進み始めたようです。

 例えば電機業界で最近聞こえてくるのは、ソニーが医療分野を強化していくとか、シャープと台湾Hon Hai Precision Industry社や米Qualcomm社とのアライアンスの話題、パナソニックがディスプレイ用パネルを部品として供給するなどの報道です。しかしながら、それらの中心となっているのが、日本メーカーの得意とする技術主導型のB2Bビジネスの話が圧倒的に多いように感じます。

 もちろんこういった方向性も日本の強みを活かす重要なものなので、どんどん推進して頂きたいと思っています。ただ、B2CビジネスがうまくいかなくなったためにやむなくB2Bビジネスへの展開を急いでいる印象はやはり拭えません。

 B2Cビジネスについて「CES」などで話題になっていたのは、これまでより高精細の4Kテレビぐらいしか残念ながら印象に残っていないからです。これも消費者ニーズからの発想ではなく、メーカーの論理が見え隠れしています。

 技術力を基にしたB2Bビジネスへの進出やB2Cではこれまでの製品の性能アップに終始し、これまでにない新しいビジネスはなかなか出てこないというのが率直な印象です。 これからの新しいコンシューマー商品やサービスをどのように作っていくか。残念ながらこういった話題はなかなか今の日本からは出てきません。

これで新B2Cビジネスを生み出せ

 新しいビジネスを創り上げるための、今までにない発想に基づく商品・サービスが出てこないことは、将来にわたって日本が抱える大きな問題なのではないかと感じています。そういった商品やサービスがいくつも出てくることが、日本の強みである技術力を活かすビジネスのフィールドが広がることにつながるのではないでしょうか。

 さて、こういう時代背景の中で私が今注目している方が二人います。二人の持論、そして行動が新しいビジネスを新しい作り方で創造するための大きなカギになると思えるのです。

 一人は「新しい市場のつくりかた」の著者の東海大学の三宅秀道先生。そしてもう一人は、NHKスペシャル「メイド・イン・ジャパン逆襲のシナリオ」で密着取材を受けておられた、日本発グローバル・ベンチャーの電動バイク・メーカー「Terra Motors」を興し、最近「世界へ挑め! 」を著した徳重徹社長。

 「新しい市場のつくりかた」で今までとまったく違った「問題発明」「文化開発」的アプローチを提唱されておられる三宅先生は、これからの日本のものづくりや商品開発が向かうべき方向性を明確に示されています。

 また徳重社長は、今委縮してしまった日本人が再び世界で戦うために、「枠」をいかに打ち壊すのかをご自分の事業を通して示そうとされています。この枠に、これまで日本人は自分自身をはめてしまい、可能性を摘み取ってしまっていました。

 私がこのお二人に注目するのには理由があります。三宅先生は「新しい市場のつくりかた」で以下の市場創造の四つのフェーズを提唱しておられます。

1.問題開発
2.技術開発
3.環境開発
4.認知開発

 日本メーカーは、今まで技術開発ばかりやってきたわけで、1、3、4のフェーズを意識的にないにしろ軽視してきた感は否めません。

 そして、新しい市場の商品やサービスは、この1、3、4のフェーズから生まれることが多くなっていると感じているからです。詳しくは三宅先生の著書を是非読んで頂きたいのですが、この1、3、4のフェーズをどう扱うかがこれからの日本の鍵になると思っています。

 簡単に各フェーズを説明してみましょう。

 まず1の問題開発のフェーズです。人が口にする“問題”というのは、全て社会的な問題であり、人が問題と捉えそれを認識しないとそこには問題は存在しないことになります。

 少し禅問答のようですが、具体例を考えてみましょう。

 例えば米Google社の検索サービスです。Google以前は、検索という概念やそれを実行してくれるサービスが通常の人びとが手軽に利用できるものではなく、またその結果も満足できるものではなかったでしょう。Googleが出てきて初めて人びとは検索を日常的に行うようになったといっても過言ではありません。

 しかし、一度この利便性を知ってしまうと、もう元に戻れなくなります。こういった商品やサービスは数多く存在します。エアコンのない生活、自動車のない生活、新幹線のない交通機関などなど、数え上げればきりがありません。

 3の環境開発は、そういった商品やサービスが現実のものとなるための環境を整えることです。検索サービスはインターネットやコンピュータが広く行きわたって初めて可能になったことに異論はないでしょう。

 4の認知開発は、いくらよい商品やサービスを作っても、それらが人びとに「よいものだ」と知られない限り広く利用されることはないでしょう。このためにたくさんの人びとにそのよさを知ってもらう作業が必要になります。

 日本企業は、この1、3、4のフェーズが、残念ながら不得手といわざるを得ません。「iPhone」に使われた技術は世界中広く知られた技術で、もちろん日本企業も持っていたものでしたが、それを最初に創り上げたのは米Apple社だったのです。

 これは正に1の問題開発のフェーズの問題でしょう。iPhoneを最初に見たときにある日本企業の幹部は、「こんなものはうちで作れる」といったという話がありますが、残念ながら実際にそれを作ったのは日本企業ではなかったのです。

 さて、一度問題開発が終われば、その問題の存在を知った人びとにとって、その問題を解くのは比較的簡単です。そして日本企業の技術者たちは、この能力に大変優れていると思っています。問題が可視化され、共有された後は、地道にその問題を解き、製品をブラッシュアップしていきます。

 自動車産業や家電といった米国で形作られたといっても過言ではない、製品の大量生産に基づくビジネス・モデルは、最初に問題開発が主に米国でなされた後に、日本企業が究極までブラッシュアップしてきました。比較的最近まで日本企業の優位は揺るぎませんでしたが、昨今あっという間に新興国にビジネスを奪われています。

 これは、日本が得意だった技術力を基にした問題解決能力の優位性は以前ほどではなく、今や賃金や投資、新興国のニーズに合った販売力、ビジネス・スピードなどがビジネスの優劣を決めるようになってきたからではないでしょうか。この部分に密接に関係するのが、3の環境開発や4の認知開発だと思うのです。

 私は今までこの技術経営戦略考のコラム、例えば「日本の家電が負け組になった本当のワケ」、や「スティーブ・ジョブズ流が日本を救う道であるワケ(前編)」「スティーブ・ジョブズ流が日本を救う道であるワケ(後編)」で述べてきた通り、これからの日本が一番注力しなくてはいけないのは、今まで見えてこなかった問題を認識し、この問題を設定するという1の問題開発の部分だという思いは変わりません。

 分かりやすくいうと、時間はかかるかもしれませんが、日本が次のスティーブ・ジョブズを生み出せるようになることがやはり最重要だと思っているのです。

 では問題開発が終わり、技術開発が一定のレベルに達した産業においては、まったく勝算はないのでしょうか。

 正直そうでもないというのが私の意見です。目の前に、環境開発や認知開発をうまく行うことでまだまだ発展する余地はあると考えています。

 例えば、パナソニックに買収された三洋電機の白物家電事業です。みなさんご存じのように、この事業はパナソニックが中国Haier社に譲渡し、日本では「AQUA」というブランド名で展開しています。テレビ・ニュースなどで、この事業の元気のよさがしばしば報道されているのをご覧になった方も多いのではないでしょうか。

 たとえ一見して衰退産業のように思えても、組織を活性化し、体制を整え、新しいマーケティングやブランドを再構築することは可能だと考えています。

 では、なぜ日本企業にはそれがなかなかできないのでしょうか。

「それは大企業病だから」
「組織が硬直化して保身に走り新しい挑戦には消極的だ」
「スピード感がまったく違う」
などの声が聞こえてきそうですね。

 このような日本企業が多い中で、私が注目している企業の一つに電動バイク・メーカーのTerra Motorsがあります。同社の徳重社長は、日本発のグローバル・ベンチャーを創るという理念を掲げて興味深いビジネス展開をしています。

 Terra Motorsは電動バイク・メーカーですからもちろん技術力は必要ですが、徳重社長はその優位性だけで勝負されているわけではありません。また電動バイクという商品も今や特別珍しいものではなく、新しい問題開発をウリにしているわけでもないのです。

 この会社は、正に3の環境開発や4の認知開発型の企業として発展しようとしていますから、今までのビジネス・モデルの伸び代を得たい日本企業の参考になるのではと私は考えています。大企業とベンチャーは違うよという声が聞こえてきそうですが、違うからこそ参考になるのだとも思っています。

 新しいエネルギーを必要とするこれからの社会において、電動バイクは一つの答となるでしょう。電動バイクが広く受け入れられる環境を整え、バイクといえばガソリン・エンジンという人びとの常識をいかに変えて認知していくかという開発が重要になるからです。

「総論賛成、各論反対」はロジックとパッションで切り崩す

 さて先日、私が日本の将来のために活躍を期待しているこのお二人と同席する機会があり、日本そして世界のものづくり、文化から組織に至るまで多彩に話題が広がりました。そのとき、思い浮かんだことがあります。

 それは、どうやってこの問題開発から認知開発に至る四つのフェーズを実際の新しいビジネスにおいて具体化していけばよいのだろうかという問いとその一つの解決方法です。

 問題開発型企業になろうとしても、そもそも問題解決ばかりやってきた成功体験を持つ企業には一朝一夕でできるものではありません。もちろん環境開発と認知開発も同様です。

 ところが米国などでは、ベンチャー企業が多く排出され、技術開発だけでなく、次から次へと新しい問題開発、環境開発、認知開発が行われて時代を創る企業に育っています。いちいちここで事例を挙げるまでもなく、その例は枚挙にいとまがないでしょう。

 シリコンバレーでは、電気自動車ベンチャーだけでも数十社が生まれるのです。しかし日本では、Terra Motors以外にはほとんどこういった新しい企業は生まれてこないのです。

 それにはいろいろな原因があるでしょうが、私には徳重さんがよく言葉にされる「ロジックとパッション」に一つのヒントがあるように思えたのです。ロジックとパッションは、極論すれば左脳思考と右脳思考に繋がると思います。どうしてこの「ロジックとパッション」が大事なのかについて述べていきたいと思います。

 人間は目の前に見えている問題を解こうとします。これは左脳思考です。左脳思考が重要視される企業内で問題解決能力が必要だと考えられるのもこういうところからきているのだと思います。

 しかし組織、それも大きな企業になると問題の解決は単純ではありません。これは読者のみなさんも身をもって感じておられるでしょう。

 たとえ一つひとつの問題がシンプルであったとしても、人、組織が複雑に絡み合った大きな組織では、見えている問題を共有し、答を探るのは並大抵のことではありません。この大きな原因の一つは、組織の中でそれぞれのポジションでそれぞれの立場や利害が複雑に絡み合っているからに他なりません。

 その問題が顕在化している技術開発のフィールドだけでも調整が大変なのに、問題自体が見えていない問題開発であったり、技術を新しいビジネスに繋ぐための環境開発や認知開発のフィールドまで網羅して解かなければならない新しいビジネス開発であったりした場合は、その難しさは容易に推し量れます。

 しかしB2Cビジネスで、これからの日本企業に必要な新しい商品やサービスを創り上げるには欠かせない、そして乗り越えていかないといけないのがこれらのフィールドにおける開発です。

 Terra Motorsの徳重社長の行動や思考を拝見すると、そこに一つの解があると思い当たりました。彼は「ロジックとパッション」という言葉に象徴される方法でこれらの問題を解いていると思うからです。

 私もときどき相談を受ける次のような例を考えてみます。

 全社的なプロジェクトで、営業や技術部門だけでなく製造部門、サービスやマーケティング部門までが参加するケースです。プロジェクト統括役員の方の掲げる主旨には参加者一同、少なくとも表面的には異論はないというケースです。

 ところが具体的にプロジェクトを進めようとすると、すぐに総論賛成各論反対のよくあるパターンにはまってしまい、すぐにどうしても動けなくなってしまいます。これは何か新しいことを始めようとした場合に、普遍的に発生するパターンでしょう。

 こうした場合に、私が「総論賛成各論反対」のプロジェクトが成功するか失敗するかという大きな分岐点になると考えているのは、未来の姿をビジョンとして捉え、それを共有し、具体化するというプロセスをうまく作れるかどうかだということなのですが、もう少し詳しく説明していきましょう。

 このような状況でもうまくいくプロジェクトというのは、リーダーの調整手腕にかかってくることが多いのも事実です。そして私が見る限り、その場合のリーダーは「ロジックとパッション」の両方をうまく使っています。

 パッションというと、熱い心とか熱意、周りを巻き込む力のようなものを想像しがちですが、もう少し仔細に観察すると多くのリーダーが行っているのが「未来のビジョンの共有」であるケースが多いのです。

未来の姿を共有してから開発段階に進むバックステップ思考

 ここで現在から未来に渡る時間軸というものを考えてみましょう。

 現時点の複雑に絡まり合う複雑系問題を、現在の立場、利害が対立する組織で解こうとすると、たぶんそれはほとんど不可能に近いといわざるを得ません。ところが関係するメンバーの多くは総論賛成ですから、未来のある時点の姿は共有できるわけです。

 もしその姿を共有できた場合でも、現在の利害を調整してそこに進むというアプローチをすると、これはなかなか難しいのはいうまでもないでしょう。総論賛成各論反対パターンです。

 しかし未来の姿であるビジョンをメンバーが共有して、そこからバックステップして時間軸を考えると話は違ってきます。ロードマップを現在から未来に向けて描くのではなく、未来の姿から遡って現在まで伸ばすのです。

「なんだ、どっちから見ても同じじゃないか」と左脳型の人はなかなかこういった思考の利点がわからずに、切って捨ててしまいがちです。しかしリーダーがメンバーとうまくビジョンを共有できた場合においては、その効果は絶大です。

「未来のビジョンについてパッションを持って語り、メンバーが共有し、バックステップ思考でロードマップを描く」という思考が成功するプロジェクトでは意識的ではないにしろ行われているのです。

 これを意識的に行ったのがスティーブ・ジョブズだと聞いたことがあります。1990年代にアップルでは、クローズドのメンバーで数十年先の未来の姿、ビジョンを描いて共有し、それからが現実のものになるであろう技術の開発のタイミングを勘案し、未来からステップバックしてロードマップを描いたというのです。

 Terra Motorsの徳重社長も、同様に将来の姿をビジョンとしてメンバーと共有し未来からバックステップして現在の行動に反映していると思えたのです。彼の特長として、彼は非常にロジカルな思考も同時に持ち合わせておられ、一つひとつの顕在化した現実の問題をシンプルに、そしてロジカルに、さらにスピード感を伴って解くということも実践されています。

 このように考えると、日本が得意な技術開発だけではなく、問題開発や環境開発、そして認知開発という全てのフィールドにおいて、全ての開発を将来のビジネスに繋ぐため必要なものが見えてきます。

 未来のビジョンを共有すること、さらにそこからバックステップするという思考の時間軸を逆転することで「総論賛成各論反対」の芽を潰し、メンバーが将来の姿を実現するためのシンプルなロジック思考ができるような環境を用意できるというのがバックステップ思考の利点です。これを現実のものにするためには、パッションを持ったリーダーがそこに向かって導くというプロセスがまずできるかどうかにかかっているといっても過言ではないでしょう。

 その後のロジカル的左脳思考は、日本が得意とするものである故に、これからのビジネスにおけるバックステップ思考の重要性はますます高まると考えています。そして、問題開発から問題解決、環境開発、認知開発に至る一連のフェーズを共有し解くことで、日本から新しいB2C産業が生まれる基盤ができるのではないでしょうか。

生島大嗣(いくしま かずし)
アイキットソリューションズ代表
大手電機メーカーで映像機器、液晶表示装置などの研究開発、情報システムに関する企画や開発に取り組み、様々な経験を積んだ後、独立。「成長を目指す企業を応援する」を軸に、グローバル企業から中小・ベンチャー企業まで、成長意欲のある企業にイノベーティブな成長戦略を中心としたコンサルティングを行っている。多数のクライアント企業の新事業創出/新製品企画・開発等の指導やプロジェクトに関わる一方、公的機関等のアドバイザ、コーディネータ、大学講師等を歴任。MBA的な視点ではなく、工学出身の独自視点での分かりやすい言葉で気付きを促す指導に定評がある。経営・技術戦略に関するコンサルティングとともに、講演・セミナー等の講師としても活躍中。
生島ブログ「日々雑感」も連載中。
中国ビジネス書の翻訳出版本である「中国モノマネ工場――世界ブランドを揺さぶる「山寨革命」の衝撃」の監修・解説も担当した。