日本のものづくりの再生に向けて

 設計の目的は「良い図面」を作ることである。良い図面とは、その図面通りに造れば要求される製品機能が保証されるものだ。また、生産技術の目的は「良品条件」を作ることである。良品条件とは、その条件通りに造れば図面通りの品質が保証されるというものだ。製造部門は製造設備やラインを適切に維持管理し、良い図面と良品条件に基づいて標準作業を行えば、良品だけができるはずである。

 ものづくりITの役割は、この設計や生産技術、製造のプロセス間で「抜け」や「漏れ」の発生を防ぎ、効率的な業務を行えるようにすること。つまり、業務プロセスや仕組みに潜む本質的な課題を見える化し、その課題を3Dモデルにより関連部門で共有し、さらに後工程へ流していくことである。しかし、ここで忘れてならないのは、その課題の解決に地道に愚直に取り組むのは、あくまで現地現物を前にした人間だということである。

 デジタル・エンジニアリングに基づくものづくりITの世界は、今後も大きく進化していく。すべての部品や工具治具の3Dモデルが準備されることで、バーチャルはよりリアルな現地現物に近づいていくだろう。しかし、どんなに詳細な3Dモデルであっても、XVLはあくまでバーチャルなものに過ぎない。これで完全な工程を定義したからといって、実際の製品ができると勘違いしてはならないのだ。その意味で、ITツールやバーチャルなデータを取り扱う人間は、より高い意識レベルが必要になる。

 総務省がまとめた2012年12月の労働力調査によれば、日本の製造業の就業者は51年ぶりに1000万人の大台を割り込んだという。国内に残った拠点はより付加価値の高い製品開発を強化し、海外に製造拠点を移した企業は製造工程を共有してグローバル競争に打ち勝つ必要がある。ものづくりITがこれを支援する。すなわち、現地現物の心や物事の本質を見極める力をもった人間が、ものづくりITを駆使することで現地現物と3Dモデルを共存させ、また双方を進化させていくのである。このことが、日本のものづくり再生につながっていくだろう。