トヨタ自動車における品質向上への適用
2012年、トヨタグループはグローバル生産を加速し、その生産台数は1000万台を越えようという勢いとなった。トヨタ自動車は、この大量の車の品質を確保するため、デジタル・エンジニアリングを積極的に活用している。同社は、車両品質生技部を中心にXVLを利用した Light DMU(本コラム第9回で紹介)を実業務に適用し、着実に効果を上げている。
車両品質生技部は、車両開発段階において設計や技術と生産現場をつなぐ位置付けにあり、より良い製品、より良いものづくりを行うための設備や工程を考える部門である。車両品質生技部という名前には、車両品質を生産技術の目線で見据えることで全社一丸の品質問題に取り組む、という思いが込められているのだ。その業務は大きく工程・設備計画と品質計画に分けられており、これらの業務のデジタル・エンジニアリング・ツールとしてXVLが活用されている。XVLを導入したことで自動車のフル3Dモデルをスムーズに扱えるようになり、その結果、検討時間が短縮され、品質にこだわって検討することも可能になったという。
本来、設計図面には守るべき品質の情報が織り込まれているものである。従って、生産工程で標準作業さえきちんとできれば、品質は作り込まれるはずだ。しかし、現地現物では想定していないところでさまざまな問題が発生する。こういった事態をできるだけ避けるため、XVLを利用して事前に品質目線で3Dモデルを確認・検証しておくのである。これは先に説明したDMUツール「XVL Studio」の適用業務のうち、新製品立ち上げを目的とした「早期の工程検証と工程確定に向けた検証」の事例に当たる。
同社における工程や設備計画及び品質計画業務でのXVL適用項目は、以下の通りである。
[2]エンジンのような大規模部品搭載時に問題なくスムーズに作業が進むかの検証(図4)
[3]工具スペースは十分か、作業目線上に障害物がないかなど作業性の確認(図5)
[4]作業姿勢に無理がないか、作業のエリアは確保されているかなどの安全性の確認(図6)
[5]異音、火災発生源がないかなどの信頼性の確認
最近では、XVLの適用範囲は、サービスのための保守性や分解性といった分野にまで広がっている(図7)。従来は実機がなければ確認できなかったようなことも、3Dモデルでかなりの部分が確認できるようになっており、Light DMUの導入が試作台数の削減にも役立っていることになる。
さらに、品質向上を目的としたデジタル・エンジニアリングの適用地域も拡大しつつあり、XVLによる組立工程の検証も近年は海外工場とも連携しながら行っている。海外工場のメンバーを巻き込んで組立工程を確認することで、トヨタの“品質第一のDNA”を海外工場にも定着させていけるのだ。グローバルに拡大するトヨタ自動車のものづくりに、デジタル・エンジニアリングは着実に貢献している。