今回紹介する書籍
題名:魯豫有約之财智过人
編者:鳳凰書品
出版社:訳林出版社
出版時期:2012年6月

 今月は香港フェニックステレビで1998年から放映されている「魯豫有約」という対談番組をまとめた書籍をご紹介している。

 先週、先々週は80后世代(1980年代生まれ)の経営者と陳魯豫の対談をご紹介してきたが、今回はぐっと古くなって1988年に中国国債の売買で富を築いて以来、「中国のNO1株取引人」とも言われている楊百万との対談をご紹介する。

 楊百万は中国株に興味のある方なら一度は聞いたことがあると思われる伝説の人物だ。「株の勝ち組 楊百万」というテレビ番組まである。

 では彼がいかにして伝説の人物になりえたか。彼はもともと上海のある工場の社員であったが、商売の才覚があったため、副業として妻の商売を手伝い相当な収入があった。ところがそのために自分の会社の商品を盗んだのではないかと疑いをかけられてしまう。身の潔白は証明されたものの、怒った楊百万はそのまま会社を辞めてしまう。そこですることもなく暇を持て余しているとき、国債の売買ができるようになったことを知る。調べてみると国債の売買価格は地方によって異なるということが分かった。そこに目を付けた彼は安徽省合肥で安く国債を買って上海で高く売る、という方法を思いつき、実行に移す。当時は電子決済などもないので、現金を持って汽車で合肥という町まで行き、国債を買ってそれを上海まで持ってきて売る、という大変手間のかかる行為を繰り返し、その結果、彼は百万元もの大金を儲けた。彼の名の楊百万も実は本名ではなく、この時も受けた百万元から来ている。

 だが、彼が本当に賢かったのはこの後だ。彼は文革時期に子供時代を過ごしていたためか、自分が財をなすためには「政府の考えを見極めなければならない」ということがよく分かっていた。彼はそのために「官」を巻き込むという手に出る。

 まず、彼は警察官をガードマンに雇った。日本では考えられないことだが、当時上海では警察に金を払い警察官をガードマンとして雇うことができたのだ。これはもちろん安全上の理由もあってのことだが、彼の狙いは別のところにあった。彼のような金儲けの方法は画期的だったため、政府の方針が変われば突然彼も犯罪者として糾弾される可能性があった。その時に警察が自分の金を守っていれば、「警察でさえ違法とわからなかったものがどうして私に違法だと分かるでしょう」と言い訳できる、と考えたからだ。彼はこのように、政府から弾圧を受けないように、好感をもたれるように様々な工夫をしている。たとえば彼は国債の売買で儲けた金には課税されないことを知っていたにもかかわらずわざわざ税務署に出向き納税する必要があるか尋ねている。このように常に政府のお墨付きをもらい、政府に好印象を与えることで弾圧されることを避けようとしてきたのである。

 本対談の中でも彼は政府の考えを読むことの大事さを繰り返し述べている。株式市場が冷え込んだとき、政府がどのようなメッセージを出すかを見て底値で株式を大量に買い、大きな利益を上げたこともある。

 このように彼は国債や株式の売買という極めて今日的な手法で儲けつつ、常に政府の顔色をうかがい機敏に行動する、という昔ながらの中国的手法で自らの財産をしっかり守っている。我々日本人も中国という国と付き合っていくうえで彼の慎重さは見習うべきかもしれない。