今回紹介する書籍
題名:魯豫有約之财智过人
編者:鳳凰書品
出版社:訳林出版社
出版時期:2012年6月

 今月は香港フェニックステレビで1998年から放映されている「魯豫有約」という対談番組をまとめた書籍をご紹介している。

 今回は、今の中国を表す言葉としてよく使われる「富二代」と呼ばれる若者たちと陳魯豫の対談をご紹介する。「富二代」とは親の代からの「富」つまり金持ちの若者を指す。1978年の改革開放政策開始の前は基本的には個人の起業はできないし、大きな貧富の差もなかったことになっている。それが改革開放と経済発展の波に乗り、親が事業で成功した家の子は子供のころから裕福に暮らし、職業も親の事業を継承するという事態が起こっている。また、「富二代」に対する言い方として「窮二代」という言葉もある。親も貧しければその子も貧しい、という現象だ。日本でも問題になっている格差の固定化が進んでいるのである。では、中国では新しく出現した「富二代」という社会階層を陳魯豫との対談を通してみていきたいと思う。

 今回、対談に参加した富二代は4人で、男女二人ずつ。男性二人は親の会社をそのまま継いだ、という比較的イメージ通りの経歴を歩んでいるが、女性二人の経歴は少しイメージと違う。まず一人目の田野は、自分が子供のころはまだ家は貧しかったという。両親が共に働いていたため祖母と二人で5平方メートル程度の家に暮らしていたというのだ。それが中学生の時に一般の中学からいわゆる「貴族学校」と言われる上流家庭向けの学校に転校したことで「自分の家は豊かになったのだな」と感じたという。このように富二代の中にも貧しさを知る者もいるのである。また、もう一人の女性、馮煒煒の経歴も少し変わっている。彼女はごく普通の家で育ったのだが、夫の家が事業をしており、夫が事業を継がず、自ら起業してしまったので彼女が夫の家の事業を継いだのだという。そういう意味ではいわゆる富二代ではない。

 われわれは「富二代」というと「子供のころから金を湯水のように使える境遇」にばかり目が行くが、この対談のときも彼らは特にブランド物などを身に着けているわけではないし、ごく普通だ。そして会話の中から感じられるのが「事業を継ぐ」ということの大きさだ。ある人は大学で専攻を選ぶ際に父に言われて自分のしたかった専攻をあきらめているし、彼らは事業を継ぐことのプレッシャーを日々感じながら暮らしているように思われる。

 本コラムでも企業研究の書籍を何度か紹介してきたが、多くの企業で継承者の問題が出てきている。中国の伝統的な考えから言えば、家業は長男が継ぐものであり、失敗は許されないからだ。この対談に参加している若き2代目達も決して経済的に恵まれた地位に安住することなくその重みをしっかりと受け止めているようだ。

 また、この対談に参加した4人の生年は1981年、1981年、1986年、1980年と先週と同じく80后世代だが、先週ご紹介した彼らに比べいわゆる「草食系」という印象が強かった。お坊ちゃん育ちの上品さと言えばそうなのだが、中国の若者も日本と同様に草食化が進んでいるということなのかもしれない。