今回紹介する書籍
題名:魯豫有約之财智过人
編者:鳳凰書品
出版社:訳林出版社
出版時期:2012年6月

 今月は香港フェニックステレビで1998年から放映されている「魯豫有約」という対談番組をまとめた書籍をご紹介している。

 中国に関心のある方なら80后(パーリンホウ)、90后(ジウリンホウ)という言葉は聞いたことがおありかもしれない。80后とは読んで字のごとく80の後、つまり1980年以降=1980年代に生まれた若者を指す。90后も同様に1990年代に生まれた若者を指す言葉だ。中国が豊かになりその成長の恩恵にあずかって育ってきただけあり、彼らに対する見方は「ひ弱、わがまま」などあまり芳しいものではないが、魯豫は彼らのありのままの姿をうまく引き出している。

 今回の対談に登場するIT起業家は、泡泡網のCEOで1981年生まれの李想、中国娯楽網を2006年に設立した1981年生まれの高燃、康盛世紀CEOで1981年生まれの戴志康、デジタルゲーム企業MajoyのCEOで1983年生まれの茅侃侃の4人。

 対談はビジネスモデルなどの話ではなく彼らの人物像に焦点を当てて進められている。

 李想は18歳、高燃は23歳、戴志康は20歳、茅侃侃は21歳の時に起業している。李想と茅侃侃は大学へ進学していないが、戴志康は大学を中退して起業したという。

 司会の陳魯豫は彼らの共通点として、若さのほかに大胆さと自らを主張する強さを見てとっている。では彼ら自身は自らとほかの一般的な同年代の若者との違いをどう考えているのであろうか。李はその問いに対して「ほかのみんなが23くらいでする苦労を17~18歳の時にしただけ」と答えており、あまり気負いは感じられない。

 だが、彼らは押しなべてみな自分の知性には自信があることを隠さない。他の人が5冊本を読む間に自分は50冊読む、という高燃。また、「自分のどこが一番かっこいいと思う?」という問いには高燃が「大胸筋」と答えた以外は皆「頭脳」と答えている。こう書くと自信家で鼻持ちならないと考える人も多いかもしれないが、「お金がたまったら何をしたい?」という問いは高燃から「貧しい子供のための基金を作って彼らをサポートしたい」という答えが返ってきている。

 また、彼らは皆仕事が大好きだ。李想は「やることがあるのはちっとも疲れない。最も疲れるのはやることがないことだ」といい、ほかのメンバーも人を管理するより自分が仕事をしている方が好きだと話している。

 前回述べたとおり、この対談番組は事業の内容を詳しく紹介するよりも彼らの人となりを浮き上がらせることを第一のテーマとしている。それゆえ、全体的にやや軽い質問や、心理テストのような遊びも入っていてテレビ番組としては面白いのだろうか、原稿で読むとやや物足りなさが残る。その一方で面白いと思った質問は「成功するために必要な要素は、天性の才能、勤勉さ、チャンス、家庭環境、忍耐、粘り強さ、人づきあい、知性、金銭のうちどれですか」というもの。李想は勤勉さ、粘り強さ、人脈と答えており、高燃は天性の才能、勤勉さ、チャンス、戴志康は勤勉さ、チャンス、粘り強さ、茅侃侃は天性の才能、知性、人脈と答えている。一番若くして起業した茅侃侃がもっとも生まれつき持っているものを重要視しているのは若さゆえかもしれない。4人中3人が勤勉さと答えていることも注意を引く。一見、ITという先端の業界で若くして彗星のごとく出てきたように見える彼らも人一倍努力しているのだ、と思うと、単に「チャイナ・ドリーム」という言葉で今の中国の発展をもてはやすのは間違えているのかもしれないと思えてくる。