日経BP社および日経エレクトロニクスが、日本の大学の理工系研究室およびベンチャー企業の研究開発を応援するべく立ち上げた「NEジャパン・ワイヤレス・テクノロジー・アワード」。編集部が選出した10件の研究を、今回から複数回に分けてご紹介していきます。今回は、東北大学によるワイヤレス技術を医療分野に応用する研究と、埼玉大学による電気自動車の給電に関する研究を紹介します。

東北大学:補助人工心臓用のワイヤレス・ポンプ、磁気工学の知見を応用

石山和志氏
石山和志氏
東北大学 電気通信研究所 教授

 東北大学 電気通信研究所 教授の石山和志氏らの研究チームは、補助人工心臓に向けたワイヤレス式の小型ポンプを開発した。磁気で駆動し、人間の心臓と同程度のポンプ能力を備える。完全に体内に埋め込むタイプの補助人工心臓への応用を目指している。

1分当たり5L以上の流量を実現

 補助人工心臓は心臓の一部機能を補助するもので、心臓疾患の患者が治癒したり、心臓移植したりするまでの期間に使用する。開発したポンプは、外部から磁界を加えることで、内部にある回転体(磁石)が回り、それが作る水流によってポンプとして駆動する。ワイヤレスであることから、現行の補助人工心臓に必要な、皮膚などを貫通するチューブが要らない。大きさは単2形乾電池と同程度である。120mmHg以上の圧力において、1分当たり5L以上の流量を実現した。東北大学は今後、医療機器メーカーなどと共同で、実用化に向けた検討を進めていく考えだ。

左は、開発したワイヤレス・ポンプを、体内で利用する場合のイメージ。循環チューブの途中に、樹脂製ケースに入ったワイヤレス・ポンプがある。右は、外部からの磁界によって駆動している様子。
左は、開発したワイヤレス・ポンプを、体内で利用する場合のイメージ。循環チューブの途中に、樹脂製ケースに入ったワイヤレス・ポンプがある。右は、外部からの磁界によって駆動している様子。
左は、開発したワイヤレス・ポンプを、体内で利用する場合のイメージ。循環チューブの途中に、樹脂製ケースに入ったワイヤレス・ポンプがある。右は、外部からの磁界によって駆動している様子。
[画像のクリックで拡大表示]

 石山氏は、もともと磁気工学の研究者であり、磁気を活用したアクチュエータの応用研究などを進めていた。磁気を使うことのメリットを突き詰めて考えていく中で、ワイヤレス応用、そして生体応用を思い立ったという。「磁気を使えば、離れたところから操作できる。ワイヤレスで操作できるとすれば、そのメリットをどこで生かすか。その時ふと、“ミクロの決死圏”という映画を思い出し、体の中のものを動かすイメージが浮かんだ」(石山氏)