胸に光る勲章
1998年5月。松下電器では,毎年恒例の創業記念式典が開かれていた。その式典会場で,DVDプレーヤの開発部隊が顔を合わせた。毎日のように見ている顔ぶれだが,この日ばかりは目の輝きが少し違う。
「いやー。苦労したけど,良かったな」
「ああ,ほんまや。アメリカでは,据置型も立ち上がり始めてるし」
思い出話に花が咲く。
「そういえば,こないだの顧客アンケート,読んだか」
「まだ見てへんけど」
「病院の待合室で映画を見てるらしい」
「誰がですか」
「お年寄りとか,病院によく行く人や」
「ほんまですかそれ」
「フィットネス・クラブで,ランニング・マシンとかやりながら見てる人もいてるって聞いたわ」
「こないだ初めて電車で見ましたよ。カバンからこう,出してね」
「それそれ,ワシも見たで」
この日,DVDプレーヤの開発部隊は,社内表彰を受けた。姿こそ見えないが,据置型,そして携帯型のDVDプレーヤを開発した技術者たちの胸には「世界初」という名の勲章が光る。
「うーん。土日はほとんどなかったですね。社内規則に引っ掛かるんで,あんまり大きな声じゃ言えないんですけど。夜中も結構…。打ち上げの宴会とかもやったんです。でも,ホッとするのが先であまりよく覚えていません。すぐに次の製品の開発が始まっていましたし。あ,そういえば創業記念式典では,四角さんと一緒に写真を撮ったなあ」