虹色の輝きの中で

 携帯型DVDプレーヤの発売を見届けた四角は,関西に本社を置く大手家電メーカーの技術担当役員と偶然に顔を合わせた。四角とは同級の彼は,少し悔しそうな口調ながらも,笑顔で祝福してくれたという。

「あれ,お前がやったんやろう。お前んとこは技術があるな。ほんまやったら,ウチがやらんといかん商品や」

満面の笑みで
満面の笑みで
松下電器産業の光ディスク事業部 事業部長を務めた四角利和氏。同社を退職した後は,電子機器の企画設計,部品調達,在庫管理などを手がけるベンチャー企業のE2openジャパンで代表取締役社長を務めた。(写真:福田一郎)

 振り返れば,携帯型CDプレーヤの開発からは15年以上の月日が流れていた。38年間勤め上げた松下電器を辞した四角は,米国に本社を置くベンチャー企業の日本法人社長となった。

 機器開発からは少し距離を置いた今でも,家電量販店に立ち寄るたびにAV機器の新製品に目が留まる。「ソニー、許すまじ」との思いで必死に開発した携帯型CDプレーヤは,一昔前では想像できないほどに小さく薄く軽くなった。DVDプレーヤも,大ヒット商品の仲間入りを果たし,展示スペースに所狭しと並んでいる。

「新製品を見るとね,いまだに『俺ならこうするんやけど…』と思ってしまう。自宅でも,重箱の隅をつつくように画質や音質を比べたりして。職業病です。でも,最近では料理をしながらとか,寝転びながら音楽を聴けるようになりました。単身赴任なんでね。新しいAV機器を買って,好きなジャズ・ボーカルを純粋に楽しんでます。実は,美空ひばりが好きで…」

 経営者の顔の中に,AV機器開発に長年携わってきた技術者の顔をのぞかせる四角。彼は最近,雑誌のインタビュー1)で自らの信念をこう披露している。

1)『Gainer』,2001年12月号,p.138.

「勝ってやろうと考え,挑戦する人間には失敗がついてまわりますが,そうした熱意の持ち主は必ずや失敗を成功につなぎます」

 世界初の携帯型DVDプレーヤを生み出す原動力は,ここにあった。ソニーに対する敗北感。そして,そこから立ち上がった不屈の闘志。敗北の悔しさは勝利への原動力を生み,その原動力は勝利を実現するための修羅場を生み出す。彼は,インタビューでこうも言う。

「修羅場は1度経験したら2度目からは修羅場ではない」

 携帯型CDプレーヤから携帯型DVDプレーヤまで,勝利を求めんがために生み出し続けた数多くの修羅場。それを薄氷を踏む思いでくぐり抜け,新しい製品を生み出した。彼の手元には,携帯型DVDプレーヤを購入したユーザーから届いた1通の手紙が今でも大切に保管してある。

「これは,まるで玉手箱のよう。感動しました」

 彼が抱える小さな銀色の玉手箱は,既に次なる勝利を見据えている。(文中敬称略)

(「携帯型DVDプレーヤの開発」、終わり)