液晶パネルとの格闘
熊澤や中山らが放熱対策に苦しんでいるころ,液晶表示部などを担当していた岩崎栄次や畠中俊一らは作業机いっぱいに並べた40枚前後のカラー液晶パネルを見比べていた。
「これとこれは使えんな」
「これくらいやったら大丈夫や」
「でも,並べると輝度が高い分,やはり目立ちますわ。どないしましょ」
「取りあえず,向こうと交渉するしかないやろ」
液晶パネルを前にして岩崎らが頭を悩ませていたのは,いわゆる「ドット欠陥」だった。液晶パネルでは,どうしても画素単位でうまく表示できない欠陥が生じる。ノート・パソコンではある程度許容している欠陥だが,岩崎らにとっては耐えられるものではない。早速,液晶事業部と交渉を進めた。
「というわけで,ドット欠陥がないやつを融通してくれんやろか」
「そう言われてもね。それくらいは欠陥とちゃいますよ。パソコンとかやったら,それでも大丈夫ですし」
「でも,今回はDVDプレーヤに使うんですわ」
「それは知ってますけどね。映像やったら,パソコンよりも欠陥が目立たんでしょうに」
液晶事業部の言い分ももっともだった。でも,欠陥は限りなくゼロに近づけたい。これはある意味,長年AV機器の画質や音質の評価に携わってきた岩崎や畠中の譲れないこだわりだったのかもしれない。
「この欠陥をダメと言われたら,歩留まりが悪くなりますよ。そしたら納入する個数は保証でけへん。それでもええんですか」
「そらあかんよ。歩留まりは関係ないやろ。ちゃんとその数は出荷してもらわんと。もちろん値段は現状通りで」
時には下手に,時には強気に。あの手この手で食い下がる開発部隊。だが,一方の液晶事業部も一歩も引かず,なかなか折り合いがつかない。交渉は平行線をたどる