高熱にご注意下さい
開発現場のリーダーを務めていた中山修三は,この年の暮れも放熱対策で過ごした。明けて正月になっても熱のことが頭から離れない。正月にもかかわらず,自宅に試作機を持ち帰った中山は思案に暮れる。
「あれなんかどうやろな」
見つけたのは,自宅にあった『すのこ』だった。まさか,とは思うがワラにもすがる思いで基板の裏側に張ってみる。
「やっぱりダメや」
熱さは消えなかった。
結局,開発部隊は最後まで放熱のうまい方法を見いだすことができずじまい。サジを投げるしかなかった。最終的には「放熱」ではなく,ポリカーボネート製のシートを筐体の裏面に張ることで落ち着く。実際の温度を下げるのではなく,触ったときの温度を低く感じさせるという苦肉の策だった。
熊澤は言う。
「まだ『銀パソ』が出てくる前で,マグネシウム合金は一般的ではなかった。結局,樹脂製のシートを張って『高熱にご注意ください』と注意書きを入れたんです。故障するほど熱くはならないんですが,ユーザー心理からすれば,触って熱かったら壊れたんじゃないかと思いますから」