1997年夏。松下電器産業(現パナソニック)の光ディスク事業部では前年から開発が続く携帯型DVDプレーヤが次第にその姿を現し始めていた。同事業部の事業部長を務める四角(よすみ)利和が持つデザインに対する強いこだわりを反映しながら筐体のデザインを固め,その色をシルバーに決める。そして,この年の秋にはついに待望の試作機が完成した。迎えた初の一般公開の時。「エレクトロニクスショー」での出展は成功裏に終わる。しかし,開発に携わる技術者たちはまだ胸を張れないでいた。まずぶち当たった課題はLSIに起因する「熱」である。
「いいアイデア浮かびましたわ」
「ほんまか。どんなんや」
ある日,開発メンバーの1人がニコニコと自説を展開し始める。
「ディスクの回転を利用するんです」
「ほう,回転な」
「ディスクが回るやないですか」
「ああ。それは分かった。その先をゆうてや」
いかにももったいぶった言い方を残りのメンバーがせかす。
「するとね,空気が動くでしょ」
「おお,動く動く」
「空冷ですよ」
「空冷?」
「空気の動きを使うて,熱い空気を外に出すんですわ。ディスクを一種の空冷ファンみたいに使たらどうやろ」
「空気がうまく流れるよう,筐体に穴を開けるゆうことか?」
「そう。筐体内で空気の流れを起こせばええんとちゃいますか」
開発メンバーはひざを叩く。
「それや!おもろい。やってみよか」
まず,空気を排気する穴を筐体に開け,DVDディスクを回す。何となく空気が流れているように感じる。
――おっ,ええ感じや。
しばらくして触ってみる。熱い。いつもよりも多く回してみる。やはり熱い。さらに回す。でも,一向に温度が下がる気配はない。
「なんや,あかんやないかっ」