1997年夏。松下電器産業(現パナソニック)の光ディスク事業部では前年から開発が続く携帯型DVDプレーヤが次第にその姿を現し始めていた。同事業部の事業部長を務める四角(よすみ)利和が持つデザインに対する強いこだわりを反映しながら筐体のデザインを固め,その色をシルバーに決める。そして,この年の秋にはついに待望の試作機が完成した。迎えた初の一般公開の時。「エレクトロニクスショー」が始まる。しかし,開発に携わる技術者たちはまだ胸を張れないでいた。
1997年10月6日~10日。JR京葉線の海浜幕張駅前は,幕張メッセへと向かうエレクトロニクス業界の関係者でごった返していた。彼らのお目当ては,エレクトロニクス業界で国内最大規模の展示会「エレクトロニクスショー’97」である。
その中で最大級の面積を占める松下電器産業のブースは大音量のナレーションとBGMであふれていた。中央にある舞台上では,スキーウエア姿やテニスウエア姿のコンパニオンが華麗にステップを踏む。スポーティーな衣装を身にまとう彼女たちが手にしていたのは,試作を終えたばかりの携帯型DVDプレーヤだ。初めて公の場に姿を現した試作機は,デジタルが紡ぎ出すクリアな映像をカラー液晶パネルにたたえながら,コンパニオンの手の中で優雅に舞う。