これ,どないする…

 倉橋は,記者発表会で四角が携帯型DVDプレーヤの話を言いたくて,言いたくて仕方ない様子だったと振り返る。

「ほんまにいつ口を滑らすかと。一緒にいた企画担当者と冷や冷やしながら聞いてました。別に狙って隠していたわけじゃないんですけどね。まだ,商品化としては道のりが遠そうでしたから。研究所出身者は,1台とか,2台とか,形だけをでっち上げるのは得意ですし」

 倉橋が言うように試作機は完成していたものの,製品として市場に出すまでの道のりは遠そうだった。試作した部品が筐体内に収まり,映像を映し出すという,ただそれだけを実現したにとどまっている。量産までに山積する検討課題はあまりにも多かった。

 記者発表で四角が質問に答えていたころ,開発部隊は1週間後に控えた国内最大の展示会「エレクトロニクスショー」での出展準備に追われていた。

「これ,どないする…」

「ああ。ほんまにエレショーに出すんやろか」

 刻一刻と迫る一般公開の時。それを待つ技術者たちはまだ,胸を張れずにいた。(文中敬称略)