この抵抗,どこやねん

 評価回路との格闘が1カ月を過ぎ,ようやく回路に対する理解が深まると,岩崎は次に小型化に取り組んだ。携帯型DVDプレーヤにこの周辺回路を内蔵するには,基板のサイズを名刺大よりも小さくしなければならない。しかも,基板を収めるスペースは,ほかの事業部の話を参考にできないほど狭い。特に高さ方向の制約が厳しく,こればかりは独自に開発を進めるしかなかった。

「変やな。どっか間違うとると思うんやけど。どこやろ」

 目を細めて基板を覗き込む。

「あれ? この抵抗,何Ωやったっけ。どないすんねん。ありゃー,またハンダ付けし直しや」

 基板を小さくするため,岩崎は当初予定していたよりもひと回り小さい抵抗やコンデンサなどの採用を決めていた。いわゆる「1005部品(1.0mm×0.5mm)」に変更したのである。6層基板の上に載った1005部品には,抵抗値やコンデンサの容量が記載されていない。岩崎は米粒をピンセットでつまむような細かい作業を何度も繰り返した。

「まだできんのか。そんな小っさな回路,すぐできるやろ」

「いや,それが…」

 難航する作業を1人で黙々と続ける岩崎に対して,開発部隊の仲間からは矢のような催促が飛んでくる。そのたびに岩崎は頭をかいて,力なく笑うしかなかった。(文中敬称略)