任す方も任す方や

 ほぼ固まりつつあるデザイン。だが,その中に部品を詰める作業がまだ残っている。ただし,形が固まってきたことで開発部隊の目標はこれまで以上に明確になった。デザインに合わせた部品の小型化は急ピッチで進む。

 こうした中,まだ携帯型機器のものとは思えない大きな基板を前に1人で目を血走らせる技術者がいた。この年の正月に先行開発部隊として石川県の液晶事業部を訪ねた岩崎栄次である。

「ココ,どうなっとんのや?」

 岩崎の前に広がっていたのは,携帯型DVDプレーヤの中核を担うカラー液晶パネルの周辺回路である。彼は液晶事業部で見た評価回路を,回路図と教科書を首っ引きで,見よう見まねで試作していた。

「ほんま,任す方も任す方や。もう時間もあらへんしな」

 こう愚痴りたくなるのも当たり前だった。開発に手を着けるまで液晶パネルの周辺回路など,その存在すら知らない。映像のデジタル信号処理が専門の岩崎にとって,アナログ回路のお化けである周辺回路は教科書レベルから学ぶ必要があった。液晶事業部に送った質問のファクシミリや電子メールは,もう何通になったか分からない。

「知り合いの知り合いをたどって,ビデオ事業部とか,テレビ事業部とかにも,頭下げて何度も教えてもらいに行ったんですよ。カメラ一体型VTRとか,液晶テレビとか,液晶パネルを使う似たような製品を作っていましたから」