薄さか,小ささか

「どっちがええんかな」

 先行開発メンバーは,筐体の形状に関する2つのアイデアを見比べながら,議論を重ねていた。

「正方形にすれば,小っさく見えますな」

「そうやな。でも,その代わり厚くなってまうわ」

 名本らの試算では,正方形タイプは機器を上部から見たときの面積が小さい。機器としては小型に見えるが,厚みが増す。ただし,横幅が狭い分だけ,回路基板を格納するスペースを確保するのが難しそうだった。

「横長なら,薄くできますな」

「そやけど,大きく見えてまう」

 小さく見える正方形タイプに比べて,横長タイプは薄くしやすい。横に長い分だけ回路基板を退避させるスペースを確保できるからだ。その代わり,上から見たときの表面積が大きくなる。正方形タイプよりも,だいぶ大ぶりに見えてしまう。

 「小ささ」を選ぶか,はたまた「薄さ」か。先行開発部隊は思案に暮れていた。これまでの技術調査の結果からすれば,いずれも技術的には実現できそうだ。ただし1点だけ,名本らには判断しかねる部品があった。

 「カラー液晶パネル」である。

 名本らが開発していた携帯型DVDプレーヤにとって,液晶パネルは製品企画を特徴付ける重要な部品の1つ。ノート・パソコンのように上ブタに取り付け,映像を表示する。これを実現する液晶パネルのサイズが,最終的に筐体の形状を左右する大きな決め手になりそうだった。