具体化する先行開発

 このときのことを名本は,さも言いにくそうに話す。

「四角さんにとっては,開発に1年もかけるのは許せんということだったのでしょう。それ以上は,議論という議論はせずに黙って聞いていました。四角さんの場合,技術に対するこだわりが人一倍強いから,どうしても厳しい言い方になるんです。その会議からしばらくは『しょぼん』とするしかなかったですね」

 おそらく四角はこのとき,10年前の出来事を思い浮かべていたのだろう。自らが半年間で開発した携帯型CDプレーヤのことを。あれだけ苦労しても世界初にはなられへんかったんや。最初から目標を1年に設定してどないすんねん――四角はこういう心構えを伝えたかったのかもしれない。

 とはいえ,名本らの先行開発部隊は決して手を抜いていたわけではない。人員の少なさに苦しめられながらも,着実に歩を進めていたようだ。名本が四角に叱責された時期には,かなり製品企画や採用技術などが具体的になり始めていた。

半年でやらんかい
タイトル02
半年でやらんかい
松下電器産業の光ディスク事業部で携帯型DVDプレーヤの先行開発を担当していた名本吉輝氏(写真右)は,1997年1月に事業部長の四角(よすみ)利和氏(写真左)に叱責される。(写真右:梅川イサオ,同左:福田一郎)

 当時,名本らが頭を悩ませていたのは筐体の形状である。それには2つの候補があった。1つは上から見た形がほぼ正方形のCDジャケット・サイズの筐体で,もう1つはDVD―Videoディスクを入れるジャケットと同じような横長の筐体である。