「バラック」づくり

 苦労はしながらも,名本がこれまで終えていた調査と,先行開発部隊が本格的に始めた調査を合わせることで,少しずつ携帯型DVDプレーヤの概観を詰めることができるようになっていた。設計部隊との最初の折衝から1カ月がたつころには,基本的な仕様や,技術的な課題,開発コスト,必要な人員などに関して,具体的な議論のたたき台となる企画書を完成させつつあった。

「でも,なんかいま一つパンチが足らんよな」

「そやな。何か目に訴えるもんがあるとええわ」

「デモ機を作るというのはどないや」

「そらええ考えや」

 先行開発部隊が考えたのは,DVDディスクから読み取った信号を実際に液晶モニタに映し出す試作機を作ることだった。DVDディスクの再生は,既に完成している据置型DVDプレーヤのシステムを使い,交流電源ではなく,携帯型DVDプレーヤと同じように電池を電源にして映像を再生する。

 試作機は比較的簡単に完成した。

「おお。映るやないか」

「ほんまや」

「何か,だいぶできたような感じがするんやけど」

「ほんまほんま」

 表示に使った6.5インチ型のカラー液晶モニタに映像が映し出されたとき,名本らは思わず歓声を上げた。これから先を考えれば道のりは長かったが,技術調査に明け暮れていた先行開発メンバーにとって,彼らが「バラック」と呼ぶ試作機作りはかなり気分が沸き立つ試みだったようだ。