パッチを当てろ

「まあ,それしかないやろ」

「そうですな」

 議論が始まってから,どのくらいの時間が経過しただろうか。ああでもない,こうでもないという議論の末に,開発部隊はバグの解決策に結論を出した。ファームウエアのバグを修正する「パッチ」を当てる。これが最終的な結論である。幸い基板上にはほかの処理で使用するために容量1MバイトのフラッシュEEPROMを搭載していた。フラッシュEEPROMは書き換え可能なメモリ。その一部にパッチを格納する。これを実現できれば,バグは何とか修正できそうだ。これが,そのときに考え付いた唯一で最良の解決策だった。

世界初のDVDプレーヤを発売
松下電器産業は1996年11月に「世界初」の据置型DVDプレーヤ2機種を発売した。上位機種の「DVD―A300」(価格9万8000円)と普及機種「DVD―A100」(同7万8000円)である。写真は当時店頭で配布したパンフレット。
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 方針が決まれば,後はそれを実現するだけ。谷口らは解決策を具体化すべく,早速パッチの制作に取り掛かった。それから2日後の水曜日。パッチは苦労の末,ようやく完成した。技術陣の間に広がる安堵の色。パッチの完成は,待ちに待った製品の発売がようやく現実になることを意味していた。

 四角は「パッチ事件」を乗り切った技術陣の苦労に最大級の賛辞を贈る。

「谷口は2日間徹夜したんと違いますか。彼や倉橋をはじめ,技術部隊はほんまに頑張ったと思いますわ。彼らは,松下電器を代表する技術者だと思います。ほんまに」

(文中敬称略)