もう時間の余裕はない

 まんじりともしない夜を過ごし,新しい週を迎えた。月曜日,問題のバグに関する対策を練るため,四角,谷口,そして設計1課の課長である倉橋章などの中心メンバーが集まった。

 据置型DVDプレーヤの開発は,心臓部であるチップセットの試作版が出来上がってから何度も壁にぶつかっていた。チップセットに格納したファームウエアで多くのバグが発生し,その問題への対策に四苦八苦していたのである。バグが起きるたびにLSIを作り直す。開発現場では,この作業を何度も繰り返していた。

 その原因は,ファームウエアの格納方法にあったと四角は分析する。

「当時は,ファームウエアをマスクROMに格納する仕様にしていたので,ファームウエアを書き換えにくかったんです。バグが見つかると,ファームウエアを書き直して,それからマスクROMを焼き直す。この手順を踏む必要がありますから,バグを見つけるたびにLSIを作り直す必要があった。これが苦労の理由でした」

 試作段階ならば,時間をかけてもLSIを作り直せばよい。しかし,量産体制が整いつつある今,ファームウエアを修正して,それをマスクROMに焼き直す時間的な余裕はなかった。

 現段階で手元にあるチップセットを使い,フリーズを回避しなければならない。頭をひねる技術陣。どないするんや。どないしましょう。評定を続ける間にも,時計の針は刻一刻と進む。