1995年9月。2陣営に分かれて争っていたDVD規格の統一が成った。その後,国内外の大手家電メーカー各社は据置型DVDプレーヤの開発にまい進する。松下電器産業(現パナソニック)でこの機器の開発を指揮することになったのは携帯型CDプレーヤを開発した四角(よすみ)利和だった。彼は,新設の光ディスク事業部で事業部長に就任しDVDプレーヤ第1号機の開発で技術者を叱咤激励する。国内外でDVD関連事業の立ち上げに奔走する四角。多忙な日々を送っていた彼に,ある週末,悪夢のような知らせが届く。

「これ何? 見たことないけど」

「ああ,これね。『DVDプレーヤ』というやつなんですけどね,このCDみたいなディスクに映画が入ってるの。ビデオと同じようなもんですわ」

「ふーん。ビデオなら持ってるから…」

「いやいや,違うんですよ。ビデオみたいなもんだけど,ビデオとは全然違うの。音も映像も格段にきれいなんだから。なんたって『デジタル』ですからね。どう? お客さん」

◇ ◇ ◇

「お客様?」

「えっ」

「お飲み物をお持ちしましょうか」

 座席の傍らで客室乗務員が微笑んでいた。

「ああ。オレンジ・ジュース,いや,水をもらおうかな」

「かしこまりました」

 1996年秋。四角利和は,シンガポール発日本行きの機中にあった。彼が事業部長として指揮する松下電器産業の光ディスク事業部では,据置型DVDプレーヤの開発が最終段階を迎えつつある。同11月の発売を控え,後は製品出荷を残すばかりだった。目前に迫った発売日の様子を思い浮かべながら,四角は感慨深げな面持ちで座席にもたれていた。

「いよいよ世界初や…」

携帯型DVDプレーヤ開発の歴史<br>CD:compact disc  CSS:content scrambling system  DVD:Digital Video Disc
携帯型DVDプレーヤ開発の歴史
CD:compact disc  CSS:content scrambling system  DVD:Digital Video Disc
[画像のクリックで拡大表示]