それでは、日本の半導体/エレクトロニクス産業にはどのような処方箋があり得るのか。竹内氏は講演の中で「本質的に重要なのは、ビジネスモデルの多様化」だと主張しました。それぞれの事業にあわせたビジネスモデルの再構築と、組織構成の最適化こそがカギだ、という指摘です。

 竹内氏は自らの専門分野であるフラッシュ・メモリを例に取って、最適なビジネスモデルを構築する上では「統合」がキーワードになると語りました。趣旨は次の通りです。フラッシュ・メモリでは、ハードウエア(デバイス)だけに力を入れていては、必ずアジア勢などにキャッチアップされてしまう。それはDRAMの歴史を見ても明らかだ。フラッシュ・メモリは当初はデバイスだけを搭載する製品だったが、今ではコントローラが付属し、信頼性向上のための処理を担っている。つまり、現在ではシステムの上位階層を成すソフトウエアまでを含めた最適化が欠かせなくなってきた。そこで、ハードウエアからソフトウエアまでを統合した形でシステムを最適化すれば、そのノウハウは容易には真似されない。今後日本は、ハードウエアを使いこなすためのソフトウエアやシステムの開発に産官学を挙げて取り組むべきだ、と。

 竹内氏は最後に「ビジネスの多様化」を言い換える形で、企業であれ個人であれ、生き残るために重要なのは「分野を越境すること」だと語りました。強大なプレーヤーが市場に参入する前は、ハードウエアやソフトウエアだけに強みを持つ企業でも生きてゆける。だが、市場参入が相次いだ後はそれでは生き残れず、ハードウエアとソフトウエア/サービスの融合や協調が必要になる。ハードウエア企業がソフトウエア事業やサービス事業に、ソフトウエア企業やサービス事業者がハードウエア事業に「越境」する覚悟が必要だ。実際、こうした事例は近年のエレクトロニクス業界で相次いでいます。

 日本の半導体/エレクトロニクス業界に「越境」する体力が残されているかどうか。それでも、少なくともこれから起こる企業間の提携や経営統合は何らかの意味で「越境」につながるものでなくてはならないでしょう。そして「越境」は半導体/エレクトロニクス業界だけでなく、すべての業界に通じる生き残りのキーワードなのかもしれません。我々、メディアにとっても。

 エルピーダメモリは今春、米Micron Technology社の傘下に入って新たなスタートを切ります。来る2月6日に日経エレクトロニクスが主催する 世界半導体サミット@東京 2013では、Micron社CEOのMark Durcan氏が講演します。どのような生き残り戦略を描いてエルピーダ買収を決めたのか、CEOが自らの言葉で語ってくれるはずです。他にも半導体業界の多くのエグゼクティブが登壇します。ぜひ、足をお運びいただけましたら幸いです。