「早よせい,早よせい」

 所構わず怒鳴り散らす事業部長。大半が研究所出身者で,これまで製品開発にはあまり深くかかわったことのない技術陣。加えて,異なる部署からの寄り合い所帯で事業部内での意思疎通がなかなかうまくいかない。役者はそろったものの,何かうまくかみ合わない感覚を抱えながら,据置型DVDプレーヤの開発は始まった。

 素人目に見れば,DVDプレーヤはCDプレーヤに非常によく似た製品である。音と映像の違いこそあれ,直径12cmの光ディスクからレーザ光を使ってデータを読み取るという点では,ほぼ同じような技術に見える。しかし実際は,10年以上前に生まれたCDプレーヤよりも格段に高い水準の技術が必要だった。

 とにかく誰も作ったことがない製品である。LSI,光ピックアップ,制御系…。すべてが新しかった。まるで四角がCDプレーヤの開発に汗を流していた10年前のように。

 しかも,DVDの規格策定で主導権を握ったことに気を良くしている経営陣からは「もちろん,1番最初に出せるんやろな」と,あからさまなプレッシャーがかかる。「早よせい,とにかく早よせい」と。開発現場には,常に緊張感が漂っていた。