「ポータブル」じゃない

 展示会の反響は上々,すべてが順調過ぎるほど順調だった。だが,宴の後には,往々にして落とし穴が待ち受けているものだ。それを知らせる電話が,事務所にいた四角の机上で鳴り響いた。

「誰やこの忙しいときに」

 声の主は,松下電器の代表取締役副社長を務めていた谷井昭雄だった。

「CDプレーヤの開発,ご苦労さん。で,調子はどないや」

「は,順調に進んでます」

 さて,何の用事だろう。四角は訝った。

「実は,先日ソニーの大賀さんから電話があってな…」

 谷井によれば,どうやら当時ソニーの代表取締役社長を務めていた大賀典雄が,四角らが開発した松下電器の試作機を夏季CESで見たらしい。

「大賀さんがな,『松下さんの携帯型プレーヤ,よくできてますね』言うんや。でもな,『あれはポータブルじゃないですね』やて。持って歩くと『針飛び』するらしいわ」

「……」