何でソニーに負けるんや
ソニーは,確実に携帯型CDプレーヤを開発している。これは,多くの業界関係者が予測していたことだった。ヘッドホン・ステレオ「ウォークマン」で名を馳せた同社が,CDプレーヤでも携帯型を開発することは「既定路線」といえる。
もちろん松下電器も,ソニーに負けじと携帯型CDプレーヤの開発を進めていた。
「『そんなに負けてへん』と思ってました。ウチも急ピッチで開発してましたからね。そもそも小さくするのはすごく難しい製品でしたから,ソニーといえどもそう早くは出せんやろと高をくくっていたこともあるし」
こう四角は話す。
悲報がもたらされたのは,ソニーの先手を打とうと,携帯型CDプレーヤ用のLSIの開発に着手した矢先のことだった。ライバルは先の先を走っていたのだ。
「何でソニーに負けるんや」
四角をはじめとするCDプレーヤの開発部隊は早速,社内からの罵声にさらされることになる。据置型CDプレーヤでも松下電器は,規格策定を主導したソニーに遅れを取った。その上携帯型までも…。その鬱憤が,すべて四角らに注がれた。立ちすくむ四角。だが,その間にも先頭を行くランナーの背中はどんどん小さくなっていく。(文中敬称略)