松下電器産業(現パナソニック)が1998年2月に発売した液晶パネル付きの携帯型DVDプレーヤ「DVD―L10」。「持ち歩いて映像を見るユーザーなんていない」という周囲の声が強い中,新しい分野を切り開いた。「映像を持ち歩く」というユーザー体験は,スマートフォンやタブレット端末で“いつでもどこでも”動画配信を楽しむ現在の生活スタイルに脈々と続いている。新分野を築き上げた製品開発の裏には,ある男の執念があった。
「何で負けるんや」
この丸いディスクを見るたびに,そのセリフを思い出す。あれから,10年以上の月日が経過したというのに。
負け戦と勝ち戦。
その両方を経験した。
だが,勝利の酔いは醒めやすく,敗北の屈辱感はいつまでも心の襞から離れない。
「長かった…」
1998年,新幹線の車中。春色が漂い始めた車窓の景色を頬に感じながら,何度反復してみたか分からない光景を今日も脳裏に映し出していた。