物流面では2012年10月から、九州と韓国を結ぶフェリーを活用し、貨物の積み替えが不要になるようにトレーラーが日本ナンバーで上陸して韓国内を走行できるシームレスな輸送オペレーションを始めた。韓国の国土交通省から認定を受けている。この結果、韓国からの購入部品は月次発注からデイリー発注に改まり、25日分持っていた部品在庫が3日分にまで減ったという。既に成果が表れ、日産九州では1台当たりの内製原価は以前に比べて43%も減った。

 こうした取り組みを日産では「九州VICTORY」と名付けている。九州を東アジア全体の中で位置づける戦略でもある。確かに日産九州から韓国までの距離は、東京までよりも短く立地的にも優位だ。

 また、九州産を半分使うことで、地元には仕事が確実に残る。「ノート」が売れれば仕事も増えるだろう。日産は中小の下請け企業に対して「海外進出する余力のないところは、九州に移って来てください。あるいは九州のメーカーはそのままとどまっていてください」と投げかけている。日産は日本のメーカーとして国内で生産したいという思いも強くある。国内の高度なもの造りの技術も当然残していくべきだとも考えている。しかし一方で、企業である以上収益も考えなければならない。このバランスをいかに取るか腐心しているかがこの「ノート」プロジェクトから垣間見られる。

 「ノート」発表の記者会見で志賀俊之・最高執行責任者はこう説明した。

「日本で売る『マーチ』の生産は既にタイに移しており、新興国で生産した商品を先進国に持ってくるモデルを踏襲すべきか、『ノート』を生産するに当たっては社内で様々な議論がありました。円高などの局面で日本に全てを残そうとするのは難しいです。しかし、全てを移しては日本で小型車を造るノウハウがなくなってしまいます」

 記者会見では海外産の部品を半分近く使って、本当に日本製と言えるのかといった質問も出たが、これについて志賀氏は「中国やタイから輸入する部品の多くは、日本メーカーが現地生産しているものです」と答えた。「メイド・イン・ジャパン」ではないが、「メイド・バイ・ジャパン」であり、広義の「日本製」という意味である。日産の取り組みを見て、「イン」と「バイ」を柔軟に組み合わせることで、日本の産業競争力を維持・向上させる時代が来ているのではないかと筆者は感じた。