日産の購買戦略の変化は、数字でも成果が表れ始めている。日産系の部品メーカーの利益率が高まっているのだ。例えば、日産向けが約6割の鬼怒川ゴム工業の2012年3月期決算での営業利益率は11.8%、日産向けが約9割のユニプレスは同10.3%。日産の子会社で変速機大手のジャトコは同5.3%だ。自動車部品産業では営業利益率が5%を超えれば合格点と言えるだろう。トヨタ系列との比較でも、変速機のアイシン精機が5.3%だから遜色ない。話はそれるが、今のトヨタは「円高協力金」をサプライヤーに課しているために、サプライヤーの営業利益率が低下する傾向にあり、日産のサプライヤーとは対照的だ。時代は変わったのであろう。

 誤解のないように言っておくと、日産はコスト削減で手を緩めたわけではない。日産とサプライヤーの馴れ合いでもない。これまでと同様に購買コストの削減は推進していくと見られ、両者の間に適度の緊張感は保たれている。アプローチの手法を環境の変化に合わせて変えているのである。

 こうした取り組みについて日産は「部品購入費の削減に主眼を置いていたのを、開発から輸送まで、すなわち上流から下流までを一体化してコスト削減に取り組む手法に切り替えた」と説明する。例えば「近接化ガイド」を設定し、輸送上効率が悪い「荷姿ワースト85部品」を洗い出し、極力、工場に近いところで生産をするように改めた。日産では近接化領域を、工場に近い「near site」、工場内のサプライヤーパークなどの「in site」 、生産ラインに直結した場所の「on site」といった具合に3領域に分けて、荷姿の悪い部品を3領域内で生産するようにしている。国内だけではなく、グローバルでもこうした方針を展開している。

 近くで生産して輸送コストを抑えるという、一見単純な戦略だが、サプライヤーの協力がなければできないことだ。こうした対応をグローバル展開でも素早くしてもらうためにも、日産とサプライヤーの間に信頼関係がなければできない。サプライヤーとの共存共栄を図る所以でもある。

 もう1つ注目すべきことは、2011年度から始まった新中期計画での「Tdc チャレンジ」であろう。「Total delivered cost チャレンジ」の略である。工場長を中心としたクロスファンクショナル(機能横断的)、クロスリージョナルナル(地域横断的)な活動だ。それまでの工場長は、工場内での車両組立コストに責任があったが、購入部品、物流、製造まで一貫した流れに責任を持つシステムに変えた。1台当たりの製造コストをしっかり把握する狙いからだ。「近接化ガイド」の設定もこの流れの中に置かれている。

 自動車メーカーは一般的に、開発や設備投資の額を抑制して、効率的な車づくりを目指す傾向にあるが、日産の場合は、「台当たりコスト」の削減に主眼を置く戦略に切り替えたため、「Tdc チャレンジ」などの取り組みが生まれたのだ。グローバル市場が拡大する中では、こうした考えの方が細かく収益を管理するためには適しているのだろう。