日産の生産技術や購買、物流などの部署から成る混成の指導部隊が、ものづくりでブレークスルーを起こそうとスローガンを掲げ、サプライヤーにまで入り込み、どうしたらコストが下がるのか、歩留まりが向上するのかといったことなどを一緒に考え、単に値引き要求をするのではなく、一緒に原価低減を展開するシステムに変えたのだ。「Thanks(サンクス)活動」とも呼ばれ、2009年から本格化した。「Trusty and Harmonious Nissan Kaizen activity with Suppliers」から頭文字を取ったもので、「お互いにありがとうと言える活動でありたい。感謝・信頼のために仕組みを構築したい」との想いからネーミングした。

 西川副社長は「トヨタ自動車の生産調査部をイメージした活動」とも語った。カンバンシステムなどトヨタ生産方式(TPS)を伝授する部隊がトヨタの生産調査部で、下請け企業に入り込み、コスト削減に一緒になって取り組んでいる。それをベンチマークしたのだ。

 こうしたシステムの利点は、端的に言えば、サプライヤーに日産への「忠誠心」が生まれるということであろう。コストを叩くだけでは、次の製品開発への投資意欲もわいてこない。サプライヤーの努力を評価し、それに報いれば、一般的には「次も日産のために頑張ろう」ということになる。

 いったんは破壊した「系列」を日産は再び復活させようとしていると見ることもできる。これは一体何を意味しているのか。筆者なりに考えみると、日産は自社の置かれた環境に合わせて戦略を変化させているのである。Ghosn氏が来日した1999年は、日産が破たん寸前の経営危機の局面にあり、会社を存続させるためには、買い叩いてでもコスト削減をしなければ日産は生き残ることができなかった。危機は脱出しても完全な「健康体」に戻るまでは、日産の独断によるコスト削減策が必要だった。しかし、改革が奏功し、新興国を中心とするグローバル戦略でも一定の成果を収め、トヨタを上回るほどの営業利益率を出す局面となった今では、成長のために新たな戦略が必要となったというわけである。その解の1つがサプライヤーとの共存共栄である。特にグローバル市場で競争に勝つためにはスピードも大きな要件となる。サプライヤーにそっぽを向かれては、素早い生産の立ち上げなどの面で後れを取りかねない。