前回は、人材活用術や社内コミュニケーションの視点から日産自動車の改革について述べてきた。今回は、購買や生産といった本業に直接関わる部分での改革について見ていくことにする。そこにもグローバル経営で日本の製造業が取るべき戦略へのヒントがある。

 最初に断っておくが、日産の戦略をそのまま真似しなさい、ということではない。「学び方を学ぶ」という意味で、日産改革を研究する意義があると筆者は感じている。結局は、経営者や社員が自分の頭で考え抜いたことしか身に付かないものなのである。

生き残りから成長へ、環境に応じて戦略転換

 まず、外部であまり知られていないのが日産の購買戦略の変更である。「コストカッター」の異名を取ったCarlos Ghosn氏のイメージから、日産はサプライヤーから買い叩いて部品を購入していると思っている人も多いだろうが、2005年ごろから徐々に方針を変更してきた。購買担当の西川廣人副社長は2012年、筆者の取材にこう説明した。

「『ゴーン改革』の入り口は系列破壊でした。効率的に仕事を進めるには明確な目標とプロセスが必要であり、正直なところ日産の購買手法はコミットメント(必達目標)達成のためのコスト削減が中心でした。しかし、経営が安定した現在はコストの構造を変えていく必要があり、サプライヤーとの関係を見直すことにしました」

 見直すまでは、日産が目標として掲げる利益を達成するために、部品の材料や納入手法、調達価格などはサプライヤーとは議論せずに日産が独自で判断して取引先に一方的に指示するやり方が主流だった。これがいわゆる「下請けいじめ」と言われたこともある。そうしたやり方を大きく変更し、日産とサプライヤー側の両者で議論をしながら工程や材料の見直しなどを行うようになり、コストが下がれば、約半分をサプライヤー側に次の開発投資へのインセンティブとして渡すようにしたのだ。取引先との共存共栄を図る方針に切り替えたのである。