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栗山 年弘氏(アルプス電気 代表取締役社長)<下>

バーチャルな専業メーカーへ、組織の壁を壊す

2013/02/07 00:00
久米 秀尚=日経エレクトロニクス
出典:日経エレクトロニクス2012年11年12日号pp.97-98 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

24年ぶりの新社長として2012年6月にアルプス電気のトップに就任した栗山年弘氏。HDD向け磁気ヘッドの開発などを主導してきた同氏は「バーチャルな専業メーカーを目指す」と意気込む。中国・台湾勢に押される中、日本の老舗部品メーカーの活路は。同氏が考える戦略と将来像を掲載する。(聞き手は久米 秀尚)

─消費者のニーズは刻一刻と変化している。どのような対応策を考えているのか。

くりやま としひろ 1957年生まれ。京都大学 理学部 物理学科卒業後、1980年4月にアルプス電気に入社。2004年4月に磁気デバイス事業部 事業部長、2007年4月に事業開発本部 本部長を担当。2011年6月に常務取締役に就任後、2012年4月に技術本部 本部長に。同年6月に代表取締役社長に就任し、現在に至る。(写真:栗原 克己)

 2012年4月に、全社の組織を再編した。具体的には、技術、生産、営業と機能で分けた。これは、市場を固定しない、というメッセージだ。「この技術はどこに適用したら一番伸びるのか」を考え、臨機応変にできるようにする狙いがある。

 言い換えると、“バーチャルな専業メーカー”を目指すということだ。「総合メーカー」と「専業メーカー」を比較すると、やはり専業メーカーが強い。総合メーカーはいい面もあるが、個別の戦いで専業メーカーに敗れることが増えている。

 そうはいっても、我々は「総合部品メーカー」の看板を下ろしたわけではない。総合メーカーの中でも、いかに専業メーカーと戦うか、が求められている。そのカギを握るのが、組織だと考えた。例えば、「今狙うのはスマートフォンだ!」となったときにすぐにリソースを割けるか。「クルマだ!」となったときにはモジュール開発に長けた技術者を集めて一気に開発するようにできるか。リソースを一つの事業部の中で、スピード感を持って臨機応変に再配置できるようにしなければならない。

─組織改編の理由は分かったが、アルプス電気は2009年に一度、組織を改編している。

 確かに、2009年4月にそれまで60年近く続いた組織体制を見直している。製品の種類ごとに組織を分けていた「ディビジョン制」を廃止して、「AUTO(オートモーティブ)事業本部」「HM&I(ホーム、モバイル&インダストリー)事業本部」「MMP(メカトロニクス、マテリアル、プロセス)事業本部」の三つに再編した。

 ディビジョン制では縦の連携のみが強くなってしまっていた。製品ごとに事業部があり、事業部ごとの競争が起こってしまい横の交流が希薄になっていた。その対応として、2009年4月に各事業本部に開発と営業を配置し、一体となって製品を売り込む体制を整えた。

 今回の改編では、さらに踏み込んで技術本部、営業本部、生産本部と、機能別に横で分けた。理由は、マーケットが変わったことだ。今さら、民生機器でモジュールに力を入れても売れるわけがない。すると、モジュール化に強い技術者は車載部品事業に移ったほうがよい。事業部や組織の壁があると、柔軟な配置転換ができない。

 さらに、2011年8月に東京本社に仮想的な「ビジネスセンター」を設けることにした。これまで技術は古川工場で営業は東京本社だったが、事業の中心を東京本社のビジネスセンターと決めた。古川工場の技術部隊と東京本社の営業部隊で向いている方向が違うと、スピード感を持つことはできない。技術部隊と営業部隊が同じ場所にいる専業メーカーと戦わなければならない。

 ビジネスセンターは、東京本社の4階の大部屋に設けている。数十人いる技術開発の担当部長の全員が一つのフロアで仕事ができる空間である。すべての技術部長には火曜日と水曜日に週2回、ビジネスセンターに集まるように命じた。ビジネスは技術と営業の両者が関係して動かしていくもの。一緒に考えて決めてくれよと伝えている。

 この1年間で、かなり技術と営業の距離は縮んで意思疎通ができるようになった。本音をぶつけ合って議論できる。これまでは組織が違えば遠慮する部分もあった。本音でやらないと勝ち抜いていけない。特に、スマートフォンは動きが早い。覇者が次々に交代し、製品も次々に出る。スピード感がないと簡単に淘汰される。まだ結果を語るには早いが、いい方向に進んでいる感触を持っている。

インタビューを終えて

 栗山氏は取材中、何度か「アルプスイズム」という言葉を使いました。「語りだすと長くなりますが、『一つのアルプス』とよく言います。仕事もイベントも一生懸命にやって、みんなで連帯感を持つこと」がアルプスらしさだそうです。それを聞いて、2011年夏のアルプス電気の古川工場(宮城県大崎市)での取材を思い出しました。同工場は、東日本大震災で車載部品の生産停止に追い込まれましたが、わずか11日後には再稼働を果たしています。震災直後から90%以上の従業員が出社していた連帯感は、まさにアルプスイズムなのだと改めて感じました。