このコラムが掲載されている「Tech-On!」では、学生の皆さんに向けた情報発信もしています。私は昨年6月までTech-On!専任だったのですが、当時、この学生向けのサイト「Tech-On!Campus」の仕事もしていました。その一環で昨年1月に、「働くことと学ぶこと」について主に大学1年生に向けて教える群馬大学の松村修二氏(大学院工学研究科 連携大学院 客員教授)の取り組みを取材する機会を得ました(当時の取材記事)。

 それから1年近くがたち、ありがたいことに松村先生から再び声をかけていただきました。「今度はゲスト講師として1コマ、90分の講義をしていただけませんでしょうか」――。喜んで引き受けたものの、90分も学生の皆さんに役立つ話ができるかどうか、心配で仕方ありませんでした。実は昨年1月に取材したときも、松村先生やゲスト講師のリクエストに応えて20分ほど話をしたのですが、90分となると準備の量が全然違ってきます。しかも、学生が飽きて寝てしまわないように話をするとなると、とてつもなく高いハードルのように感じてきました。

 そこで、前回の話にいくつか別の話を追加した講話を前半として、後半は学生が参加できるゲームを一緒にすることにしました。ゲームのテーマは、新しいアイデアを発想すること。具体的には、日経エレクトロニクス2012年12月10日号の特集「日常をぶち破れ!――発想の新潮流」で紹介した、バンダイの高橋晋平氏(プレイトイ事業部 イノベイティブトイチーム サブリーダー)が提唱する「アイデアしりとり」を実際に学生たちとやってみることにしました。

講義の様子

 新しいアイデアを発想することは、「どんな仕事にも求められる、大切なこと」といえるでしょう。一方、学生の、特に学部1年生の立場では、レポートを書いたりテスト問題を解いたりする機会は多くあっても、新しいアイデアを発想する機会はそう多くないだろうから、面白いのではないかと思ったわけです。しかも、アイデアしりとりでは、どんなにくだらないことでも思い付いたことをドンドン披露すればよいので、学生たちも気軽に参加しやすいだろうという考えもありました。

 お題は、先述の特集記事と同じ「新しいトランプ」のアイデア出しにしました(学生たちには特集記事を見せずに実施しました)。実際にやってみると、学生たちはゲームということで笑顔を見せつつも、表情は真剣そのもの。今回の講義にゲームを持ち込んだ私としては、ほっと一安心。後は、席順で次々に指名していけば、矢継ぎ早にドンドン答えてくれるかなあと思っていましたが、多くの学生は「うーん」と考え込んで、なかなか言葉が出てきません。私の考えが甘かった。きっと、自分も当てられる学生の立場だったら同じだったでしょう。講義後のレポートにも、「難しかった」という感想がたくさんありました。

講義の様子

 同時に、多くの学生は「やってみて面白かった。楽しかった」とレポートに書いてくれました。難しいと思いながらも懸命に考えて、皆、アイデアを出してくれたのはとてもうれしいことでした。「発想しようとしているときに自分が頭を使って考えているのが分かった」と書いてくれた学生もいました。学生たちの奮闘のおかげで、30分間で32個もの新しいトランプのアイデアが生まれました。「仲間が出したアイデアに刺激を受けた」という学生が多くいたのも、うれしかったことの一つです。たくさんのアイデアを出した学生たちのパワーを実感しつつ、実際にやってみることの重要性を感じた1日でした。