2100年の科学ライフ、ミチオ・カク著、斉藤 隆央訳、2,730円(税込)、四六判、480ページ、NHK出版、2012年9月
2100年の科学ライフ、ミチオ・カク著、斉藤 隆央訳、2,730円(税込)、四六判、480ページ、NHK出版、2012年9月
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 本書の最終章「2100年のある日」が描きだす未来の生活の姿は、SF(science fiction)として読めばごく一般的かもしれない。コンタクト・レンズ型ディスプレイやバーチャル医師、磁気自動車など、どこかで見たことがあるだろう。しかし、最終章に至るまでの著者の予測を読んだ後では、そうした印象が一変し、現在と地続きの未来のように思えてくる。

 量子物理学者であり科学番組の制作にも携わる著者は、本書でコンピュータや医療、エネルギー、宇宙旅行などの分野について、それぞれ現在~2030年、2030~2070年、2070~2100年の状況を予想している。その予想が、過去や現在の先端的な研究を踏まえつつ、これまで知られている物理法則や、自然界の四つの力(重力、電磁力、弱い核力、強い核力)に矛盾しないように書かれている点が特徴的だ。「マトリックス」「ブレードランナー」「ミクロの決死圏」といった名作映画を引き合いに出しながら解説してあり、明るくない分野でも未来の生活を想像しやすい。

 本書に書かれた未来の姿が納得感を持って伝わってくるのは、技術だけではなく、人の行動原理を踏まえたものになっているからだろう。著者は「われわれの望み、夢、人格、欲求は、この先10万年はきっと変わるまい。まだ穴居人だった祖先と同じような考え方をしているに違いない」(本書のp.24)とし、新しい技術と原始的な欲求とのあつれきがあるところでは必ず原始の欲求が勝利を収めてきたと主張する。

 「獲物の証拠を要求する」「直接会いたがる」「他者を観察したがる」「娯楽に興じたがる」─。著者が「穴居人の原理」と呼ぶ人の行動原理は、確かに現代の私たちにも当てはまるし、そうした行動原理に合った技術が世の中に受け入れられてきたと感じる事例は多い。そうした傾向は、遠い未来でも変わらないだろう。

 平均的な経済成長率を当てはめると、地球は100年ほどで「太陽から降り注ぐエネルギーすべてを消費する惑星規模の文明」に到達するという。ただし、そこに至るにはエネルギーや食料、医療などに大きな変化が必要になるだろう。著者は、科学の使い方を誤れば、人類は惑星規模の文明に至る前に自らを滅ぼしてしまうと警鐘を鳴らす。「われわれに可能性と能力を与える」(本書のp.438)ものである科学をどれだけうまく使えるかが試される時代なのだ。そうした時代に科学の先端に触れられる自らの幸運に感謝するとともに、あらためて気を引き締めた一冊だった。

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