タイトルを見て何のことかと思われた読者の方もいらっしゃるでしょう。これは日経エレクトロニクス2013年1月21日号の特集「やさしい機械」というタイトルに込めた思いです。日経エレクトロニクスは、1月21日号で創刊1100号を迎えました。1971年の創刊以来、40年以上もエレクトロニクス産業の発展とともに続いてきた雑誌です。最近では、1000号で「誰でもメーカー」(2009年3月23日号)、900号で「インビジブル・エレクトロニクス」(2005年11月29日号)、800号で「すべては、ユビキタスから始まる。」(2001年7月16日号)、700号で「コネクテッドホーム」(1997年10月6日号)と、100号ごとに将来を予測する記念特集を掲載してきました。

 今回の1100号でも、10年後のエレクトロニクス産業に大きな影響を及ぼすものは何か、将来を予測する特集を37ページもの誌面を割き、掲載しています。今回の特集を組むため、私を含めて4人の記者が担当しました。記念特集を始める当初は「超能力の時代」と突飛なテーマで動き出しましたが、ワイガヤ的に意見を皆で繰り広げた結果、「人と機械の新たな共生」「人間拡張(Augmented Human)」「気が利く機械」といった方向性に収束しました。

 エレクトロニクス産業の発展によって、我々はスマートフォンやタブレット端末といった小型で高性能なコンピュータを身近なものとして使えるようになりました。さまざまな場面で便利に活用でき、暮らしを大きく変えています。ですが、こうした携帯機器への機能集約が本当のゴールなのかを自問自答すると、「そうではない」と感じています。

詳細は記念特集を読んでいただきたいですが、さまざまな機能を分散化し、もっと生活に溶け込ませることができるはずです。これは「テレビ」「スマートフォン」といった既存製品の概念を越えて、人がより暮らしやすく、快適に行動するために、人と機械とのあり方を再構築することを意味しています(今回の特集では、機器やコンピュータなどエレクトロニクス機器もすべて“機械”と表現しました)。

 スマートフォンなどの携帯機器の進化によって、小型・高性能で低コストの部品を手に入れることができるようになりました。さらに、周囲の環境や人の生体情報をリアルタイムで測定できるセンサが続々と登場しています。こうした部品やセンサを活用することで、新たな機械を創造できるはずです。もちろんこうした新たな機械のあり方に模範解答はありません。それこそ世界中で競争が起こるでしょう。

 実際、世界の名だたるエレクトロニクス企業が新たな方向性を打ち出しています。例えば、米Intel社は「パーベイシブ(行き渡った)・コンピューティング」、米IBM社は「コグニティブ(認識の)・システム」、米Qualcomm社は「デジタル・シックス・センス(デジタル第6感)」といった新機軸に向けて動き出しています。10年後の世界はどう変わるのか、エレクトロニクス産業がやれることは、まだまだたくさんあるはずです。

 今回の特集では、「私が見る未来」と題してインタビューも5本掲載しました。東北大学 加齢医学研究所 教授の川島隆太氏、ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン 取締役の辻野広司氏、国立情報学研究所の社会共有知研究センター センター長の新井紀子氏、ソニーコンピュータサイエンス研究所 アソシエイトリサーチャーの竹内雄一郎氏、理化学研究 脳科学総合研究センター 適応知性研究チーム チームリーダーの藤井直敬氏に話をうかがいました。本文の記事と併せてぜひご一読ください。