日本の製造業にとって「大部屋」は、なじみのある概念であり、目新しい仕事の進め方とは思わないかもしれません。実際、生産技術や生産といった部署ではよく使われていると思います。ところが近年、製品の複雑化やビジネスの競争激化に伴い、企画/設計/営業/サービス/管理などの部署にまで大部屋を適用し、競争力を高めようとしている事例が増えています。

 大部屋は、プロジェクト管理のための道具です。企画/マーケティング/販売/設計/生産技術/生産/品質保証など全ての関連部署が1つの部屋に集まり、業務を進めます。大部屋での活動は構造化されているので、ミーティングの時間が短くなり、仕事のアウトプットの質と量が飛躍的に向上します。課題が先延ばしになったり決定に際して混乱が生じたりするなどの不満を残したままミーティングが終わることもありません。大部屋の適用範囲を拡大することで、そうしたメリットを最大限に生かそうというわけです。

 大部屋というと自動車の開発での事例をよく聞きますが、筆者は自動車に限らず、航空機/医療機器/電気製品/化学/ファッションなどさまざまな産業において、大部屋の導入・実施を支援しました(表11)。そのうち、核となるプロジェクトを推進する部門には必ず大部屋を導入しています。プロジェクトをサポートする下部組織としてのチームについては、優先順位の高い(技術的に難しい、または負荷が非常に大きい)チームに限って導入しています。さらに特筆すべきは、プロジェクトを統括する副社長のレベルにも大部屋を導入し、成功にこぎ着けたことです。米Boeing社という超巨大な組織であっても、プロジェクトを「見える化」することが可能でした。

表1●筆者が大部屋の導入・実施を支援した事例
[画像のクリックで拡大表示]

 日本(の主に自動車メーカー)が起源といっても差し支えない大部屋ですが、それが今は世界中に拡大し、進化を遂げています。筆者は、その進化した大部屋があらためて日本の製造業に必要になってきたと感じています。グローバル化に向けた異文化における仕事の進め方、課題解決や意思決定のスピードなどが、日本企業の課題になっているからです。さらに、そうした環境下で競争力を高めるには、現状のPDM(Product Data Management)やPLM(Product Lifecycle Management)を活用することで、グローバルな開発環境を実現する「デジタル大部屋」も視野に入れておく必要があります(デジタル大部屋については、連載の最後で触れるつもりです)。