2013年が明けたばかりだが、上海はまだ年の瀬のまっただ中。中国では正月を旧暦で祝うためで、政府の定めた今年の春節(旧正月)休暇は2月9~15日の7連休。ただ16、17日の土日を合わせて9連休とする企業が多いようだ。

 例年この時期に起こるのが民族の大移動だ。帰省客や観光客で交通機関が特に混雑する春節前後の約40日間ほどを「春運」期間と呼ぶ。中国政府の国家発展改革委員会の統計によると、2012年の春運期間に海・空・陸の交通機関を利用した人の数はのべ31億5800万人。途方もない数である。

 さて、中国に生産拠点を置くEMS(電子機器受託生産)やODM(Original Design Manufacturer)の人事や生産管理の担当者にとって、春節は心からはくつろげない時期だと言われる。帰省したワーカーが春節を機にさらに条件の良い工場に転職したり、故郷にそのまま残ったりすることが多く、人手の確保に最も苦労する時期だからである。また、人気商品の受注を抱えている企業であれば、春節休暇中に工場の一部を稼働するところも少なくない。

 ところが、中国で春節の風物詩の1つとなった「EMS/ODMやそのサプライチェーンが人集めに奔走する」という風景が、今年は例年ほどには見られない。欧米、とりわけ欧州の景気低迷や、タブレットPCの台頭などにより、台湾系EMS/ODMが主力とするノートPCの需要が低迷していることが影響しているようだ。

 例えば、台湾紙『経済日報』(2012年12月27日付)は、デスクトップPCやノートPC用を主とする台湾系の受動部品各社では、中国工場の休みを暦通りかそれ以上の日数にして、工場を閉鎖してしまうところがほとんどだと伝えている。人手が足りているわけではないが、急ぎの注文がないため、積極的に人の手当てに動かずとも間に合う状態なのだという。

 こうした中、EMS世界最大手の台湾Hon Hai Precision Industry社〔鴻海精密工業、通称:Foxconn(フォックスコン)〕は、同社がアセンブリを手がける米Apple社の7.9型タブレット端末「iPad mini」の好調な販売を受け、春節も工場を稼働してiPad miniの生産に当たるようだ。iPad miniは2012年末から品薄の状態が続いており、この原稿を書いている2013年1月11日現在、日本のApple StoreではWi-Fiモデルがいずれも出荷予定日2週間後となっている。『経済日報』(同年12月28日付)によると、フォックスコンのiPad mini生産工場では、一部の従業員が春節休暇を返上して生産対応するという。

フォックスコンの中国本部がある深セン龍華工場