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中国飲食サービス新時代の幕開け(1)

永井麻生子=おあしすランゲージラボラトリー代表
2013/01/09 00:00
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今回紹介する書籍
題名:海底捞你学得会
著者:楊鉄鋒
出版社:人民郵電出版社
出版時期:2011年8月

 今月4回にわたってご紹介するのは『海底捞你学得会』(楊鉄鋒著 タイトル日本語訳:海底撈から学べる)という作品。2011年9月に本コラムで『海底捞你学不会』(黄鉄鷹著 同:海底撈から学びきれない)という作品を紹介したが、この本に対するアンサーブックとなっている。『学びきれない』のほうでは如何に海底撈という鍋料理チェーン店が優れているかの紹介にとどまっていたのだが、今回ご紹介する『学べる』ではその凄さの秘密を緻密に分析して紹介している。『学べる』の著者は主に飲食業を対象とした経営コンサルタントで、海底撈のすごさを学ばなくてはもったいないと思い、わざとベストセラーである『学びきれない』に真っ向から対立するようなタイトルを付けたようだ。

 前述のように『学びきれない』は「素晴らしい海底撈」を紹介する内容だったため、エピソードなどが中心で論理的な分析は少ないのに対し、本書は表や数字を駆使してどうして海底撈がここまで成長したのか、そして飲食業者が成功するためにはどのような工夫が必要なのかを中心に述べている。ブランド戦略、価格設定、従業員の教育などほかの分野のビジネスパーソンにとっても役に立つ情報を本書から紹介していきたい。中国進出の際のヒントになるのはもちろんのこと、汎用性の高い分析も多いので様々な場面で応用が利くであろう。

 では、本書の分析に入る前に海底撈という火鍋チェーン店についてご紹介しておきたい。公式ホームページによると、海底撈は1994年に設立された四川風火鍋料理を中心とした外食チェーン。現在では北京、上海、西安、鄭州、天津、南京、青島、杭州、無錫など中国国内の15の都市に計71の支店を擁し、現在の総職員数は1万4000人以上。その特徴は独特の顧客サービスにあると言われる。順番待ちの間に無料のネイルアートサービスが受けられたり、待合室にボードゲームが置かれていたり、と客を飽きさせない工夫がなされており、従業員のサービスも評価が高い。筆者が海底撈に行った際にもサービスのきめ細やかさを感じた。たとえば席に着くと、ちょうど携帯電話機が入るくらいの大きさのチャック付ビニール袋が渡される。読者の皆様も焼肉や鍋料理の際に机の上に置いておいた携帯電話機が汚れた、という経験を持つ方がおられるだろう。そのような事態を避けるために海底撈ではビニール袋と眼鏡ふきを配っているのだ。私は日本でも受けたことがないサービスに大変驚いた。今まで、中国のサービスと言えば、改善されたとはいえ日本にははるか及ばない、というのが一般的なイメージだった。しかし、ここではこのように、サービス内容といい、従業員の接客態度といい日本と遜色ない快適な環境で食事が楽しめるのである。

 それ故、中国人の友人に聞いても「海底撈=いいサービス」という返答が返ってくる。

 しかし、本書では海底撈チェーン発展のキモは決してそのサービスのみにあるのではなく、全体を通したビジネスモデルにあるのだと主張する。海底撈のメニューは一見するとほかの火鍋屋と大きな違いはない、しかし、その価格設定、メニュー構成などに緻密な計算があるというのだ。海底撈の成功の一番大きな理由は経営陣が「コストをかけただけ儲かる」「売り上げの数字だけ追っていては成長できない」ということがわかっていることだ。飲食店は参入が比較的容易と考えられがちなだけに薄利多売に走りやすい。しかし海底撈ではそのような従来の飲食チェーンとは異なる考えに立脚してチェーン展開を進めている。海底撈のやり方を見れば中国での最先端の外食産業の在り方、また今後目指す方向性をも見て取れる。

 本連載では次回以降3回続けてその秘密を利益率、ターゲット設定、従業員管理に分けてみていくので是非中国の外食産業の新しい経営形態を感じ取ってほしい。

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