DR指摘事項への対応も効率的に

 2点目の“不十分になりがちなポイント”は、3次元データによるデザインレビュー(DR)によって指摘された課題を解決する体制である。前回述べたように、現在では3次元データを用いて、開発初期段階から多くの関係部門がDRに参画することが一般的になった。しかし、この時のDRの構図が、しばしば後工程部門から設計部門へ要望を伝える形になってしまっているのである。

 これに対してある企業では、DRで抽出した課題に対し各部門が対応可能な施策を全て挙げ、その中から最もコスト対効果が高い施策を選択したり、リスクがあるものは複数の施策を同時に実施したりするなどしている。加えて、こうした対応が定常的に実施できるように規定した上、課題管理表の施策欄を部門別に分けたり、コスト対効果の比較を行う欄を追加したりした。

 品質重視の企業で見られる傾向として、後工程部門のメンバーがDRで指摘した内容に設計部門が対応したにもかかわらず、その後のDRで同じ後工程部門の別メンバーが対応不十分と指摘し、手戻りを発生させてしまうことが挙げられる。多くの場合、指摘自体の内容は後の方が優れているが、手戻りを含んだコスト対効果を考えると良い指摘であると単純には言えない場合も多いのである。しかも、開発初期段階で一度対応したにも関わらず手戻りが発生した場合、設計者のモチベーションダウンも小さくない。それは、彼らがフロント・ローディングに疑問を抱く、大きな要因ともなり得るのである。

 こうしたことを防止するため、ある企業ではDRでの決定事項を変更する際、「変更管理プロセス」の実施を義務付けている。この変更管理プロセスにより、常に“コスト対効果においても有効”と検証した上で、変更案を実施することになるのだ。単に、過去の対応より多少良くなる、といった程度で手戻りを発生させないようにしているのである。また、このような“縛り”ができたためレビュー決定事項の重要度が増し、責任を持った指摘が増えるという効果も生まれている。

 以上のような課題解決プロセスや課題管理表、変更プロセスなどは、プロジェクトマネジメントの基本ともいえる。しかし現実には、開発初期段階における部門連携の課題解決が効果的に行われていないことも多い。開発プロセスを定義する際には、このことに十分注意するべきであろう。

 3点目は、3次元データの後工程活用である。製造作業手順書や保守作業部品表などにおける3次元データの活用は非常に有効であり、その詳しい実施内容は、本連載の別の回で、共著者である鳥谷氏の文章をご覧いただきたい。いずれにせよ、前回に述べたように、この10年間でこうした3次元データの活用が進んだとは言い難い状況だ。

 3次元データの活用を進める上では、開発プロセスにおける各部門の役割定義(業務分掌)や開発プロジェクトへ投入するリソース配分を変えることなどがポイントとして挙げられるだろう。簡単なことではないかもしれないが、これらを変えていかなければ、3次元データの後工程活用は決して進まない。このことを、前回の振り返りからも理解していただきたい。