ラフなモデリングで早期に課題解決

 折りたたみ型の携帯電話の筐体は、液晶パネル側とキーボード側の2つに分かれる。メイン基板、アンテナ、電池、振動モーター、スピーカー、背面ディスプレイといった各部品をどちらの筐体に配置するかによって、その後の設計難易度や設計規模が変わってくる。その結果、製品品質や製造コスト、開発期間にも大きな影響が出てくるのだ。さらに、詳細設計を進めた後で筐体にまたがって部品配置を変更してしまうと、そこに大きな手戻りも発生する。従って、各筐体への部品配置においては、開発初期段階で正しい判断を下すことが求められるのである。

 ここでポイントとなるのが、モデリングレベルと評価精度の把握である。例えば重心を例に取ると、全ての部品を直方体でモデリングした場合の重心位置の精度、あるいは直方体と円柱の2種類に分けてモデリングした場合、1部品当たり3フィーチャー(突起、シェル、カット)でモデリングした場合など、それぞれ精度がどの程度になるかを把握しておけば、最終的な形状まで作成しなくても複数の部品配置案の中から最適な案を見極められる。これと同じ理屈で、強度や熱について最適な部品配置案を見極めることも、モデリングレベルと評価精度の把握によって可能になる。

 ここで例に挙げた重心、強度、熱など、3次元CADや軽量3次元データ・アプリケーション、CAEなどで定量的に評価できる項目の他、製品のセールスポイントやデザイン性の確保しやすさなども評価項目に含める必要がある。なぜなら、一般的に高性能な部品はサイズが大きいため、たとえば高音質をセールスポイントにするとスピーカーが大きくなるし、背面ディスプレイをセールスポイントにすればその部品が大きくなる。いずれも部品配置への影響が避けられないのである。従って、これらも含めた評価項目によって、総合的に部品配置案を決定することになるのだ。

 もう1つの例は、ある種の測定器である。測定精度を確保するため、筐体内の温度を一定範囲内に制御することが重要となるものがある。こうした温度制御を可能とするには、製品内の熱源やファンの位置、また熱源により温度が上昇した空気を筐体外へ排出する流路形状の設計などがポイントとなる。ある企業では、以前、この温度制御の課題を試作品の評価によって解決していた。つまり評価結果に問題があった場合、設計変更を行っていたのである。しかし、熱源やファンの位置、流路の変更は製品全体の構造に影響を与えるため、非常に大きな規模の設計変更になりがちだ。結果として、開発期間が予定の2倍以上に延びてしまうことも珍しくなかった。

 そこでこの企業は、このような手戻りを3次元設計とCAEで防止することにした。その方法は、部品配置/流路形状が異なる複数の設計案について、ほとんどの部品を直方体で表現した上で熱流体解析を行い、その解析結果に基づいて最適な部品配置/流路形状のパターンを見極めたのである。以降この企業では、同じ特性を持つ製品についてはラフなモデルのCAEにより構想設計段階において熱課題を解決する、というプロセスで設計を進めることにした。

 この2つの具体例では、どちらも製品の特性に合わせて、開発初期段階で、課題解決のための“モデリングレベルと評価方法”の具体的な定義を行うことがポイントとなっている。