米通信技術大手のQualcomm社は、2011年12月8日、普及価格帯のスマートフォンが一般的になっている地域に向けて携帯端末を開発しているメーカーを支援するために、「Qualcomm Reference Design(QRD)開発プラットフォーム」と「エコシステムプログラム」を拡充したと発表した(Qualcomm社の関連リリース)。

 この発表は、当時、日本ではあまり注目されなかった。しかし、中国では比較的大きく取り上げられた。その背景には、台湾MediaTek社(聯発科技)の存在がある。中国では「Qualcomm社は、中国のローエンド・スマートフォン市場の拡大を見据えてMediaTek社の『ターンキー・ソリューション』を真似してスマホメーカー向けのQRD開発プラットフォームを開発した」とするような報道が多かった。

 日本では、最近、「スマホは誰でも作れる モバイル時代の『盟主』、次の一手」(2012年12月21日付の『日本経済新聞電子版』)というようなQualcomm社関連の記事が掲載されるなど、Qualcomm社のQRDシステムを革新的な手法と高く評価する傾向が見られる。しかし、MediaTek社と比較してみれば、Qualcomm社のこの「次の一手」とは、実は、新興企業から起きたイノベーションを参考にしたマーケティング戦略とも見て取れる。いわば、これは、近年注目されているリバース・イノベーション*1の新たな動きであり、先進国のグローバル企業が新興企業のビジネスモデルを採用するといった点においてリバース・イノベーションは“リバース・イノベーション2.0”の段階に入ったのではないかと筆者は考えている。

*1 リバース・イノベーション 最初に新興国で生み出した技術や製品を先進国に逆流させるというコンセプトのこと。これまでは、先進国向けに開発した技術や製品を基に、機能を絞って低価格化するなどの修正を加えた上で新興国に持ち込むというやり方が一般的だったが、その逆を行うことからこう呼ばれる。