日本製造業が”逆スマイルカーブ”になっている理由

 「スマイルカーブ」という言葉をご存じだろうか。これは電子産業に見られる収益構造を表すモデルの名称で、バリューチェーンの上流工程(商品企画や部品製造)と下流工程(流通・サービス・保守)の付加価値が高く、中間工程(組立・製造工程)の付加価値は低いという考え方を示している。これらの付加価値を線で結んで図形にすると、両端が上がっていて中央部が下がったものとなる。これが「スマイルカーブ」と呼ばれる理由だ。この「スマイルカーブ」は、台湾の事業家が、パソコンの各製造過程における付加価値の特徴を提唱したのが始まりとされている。

※参考文献:「スマイルカーブ」マーケティングWiki

 この「スマイルカーブ」に対し、正反対の内容を主張するレポートが存在する(図1)。2005年版の「ものづくり白書」だ。図1は、日本の製造業において、組立製造工程が最も利益率が高い事業段階だと認識されていることを示している。「スマイルカーブ」とは完全に逆の、言わば「逆スマイルカーブ」で説明しているのだ。ちなみに、ものづくり白書の調査におけるアンケート形式は、各工程の利益率を直接的に評価しているのではなく、「どの事業段階が最も利益率が高いか」という質問に対しての回答率として数値化したものである。

図1●利益率が最も高い事業段階
2005年版ものづくり白書 図131-2
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 この「逆スマイルカーブ」になっている理由として、ものづくり白書は次のように説明している。

「我が国の製造業企業は総じて、各部門間の情報共有と調整によって、市場変化に迅速に対応し、最適な部材調達と生産管理を行った結果、在庫管理などが徹底され効率的な生産が行われているため、製造・組立が最も利益率が高くなっていると認識しているものと考えられる。」(2005年版ものづくり白書)

 つまり、擦り合わせ型のものづくりプロセスが、日本製造業の製品の付加価値を生み出すコアコンピタンスである、という意味に解釈できる。

 しかし、本連載第3回でも示したように、「貿易特化係数」は組立系製造業を中心に低下する方向にある。製造・組立工程がもっとも利益を生み出す工程である、という既存の概念は変化しつつあるのだ。本連載第1回でも述べたが、多くの製造業企業は、リーマンショック以前の利益水準に戻せないどころか、半分にも満たない水準に低迷している。リーマンショックを境に、従来の「逆スマイルカーブ」モデルは、グローバル競争において通用しなくなってきているのではないだろうか。