日本製造業生き残りのために強化すべきプロセス

 2005年時点で、日本の製造業の利益率がもっとも高い事業段階は、組立・製造だと認識されていた。前述の通り「スマイルカーブ」で提唱されたモデルとは真逆の考え方である。しかし、原材料を輸入し日本で組立・製造した製品を海外に輸出する、いわゆる加工貿易型モデルは、「貿易特化係数」の低下からも分かるように、いまや過去のものとなりつつあるのではないだろうか。

 「スマイルカーブ」を今後の先進的なプロセス別付加価値モデルであると考えると、業務プロセスの強化の方向性として、次のようなポイントが挙げられる(図2)。

図2●スマイルカーブの変化と強化すべきプロセス
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[1]先端素材開発や高度な技術開発のさらなる強化
 従来からこの分野へは注力されていると思うが、一方で相変わらず、優秀な技術者が設計業務に従事させられている企業を見ることも多い。そうしたことから考えると、この分野へのさらなるリソースシフトが可能なのではないだろうか。

 すなわち研究開発や生産技術分野においては、CAEなどシミュレーションに対する投資をより増強すべきなのだ。製品開発のライフサイクルやリードタイムは、以前にもまして短縮傾向にある。それに対応していくには、シミュレーション強化による設計手戻り削減や、試作回数の低減などが必須課題となっているのである。

[2]市場ニーズの把握と商品コンセプトの構築
 従来、日本市場で競争が生まれた場合、市場ニーズが徹底的に調査されてきた。日本市場をターゲットとした多数の新しいコンセプトの製品がリリースされ、ガラパゴス化という言葉さえ生まれた。しかし、現在その主戦場は新興国へシフトしている。そして、それらの新興国市場で、韓国などの競合が市場を席巻していることは周知の事実である。

 「逆スマイルカーブ」でも説明したように、日本の製造業は擦り合わせ型製品開発から付加価値を生み、グローバル市場をリードしてきた。この得意技を利用して現地ニーズを迅速に取り込み、擦り合わせ型で短期間に製品をリリースできるような、製品企画~開発プロセスを実現することが急務なのである。

[3]低付加価値化した業務のオフショア化
 従来、日本の製造業は、組立・製造工程の低コスト化を求めて海外への生産シフトを進めてきた。最近ではそれに加え、設計工程もオフショア化する企業が増加している。製品の多品種化にともない、派生製品や顧客別のオーダーメイド設計が増加しているためだ。また、新興国市場をターゲットとした、現地向け設計の必要性も高くなっている。

 さらに考慮すべき点は、製品開発における現地化とグローバル全体最適化を両立させることだ。これを実現するためには、グローバルレベルで共通の開発設計環境が必要となる。いわゆる「グローバルPLM」と呼ばれる考え方だ。世界中のどこにいても、同じ開発設計環境で同じ技術情報を共有しながら、コラボレーション開発ができるようにすることである。これには3D設計によるビジュアライゼーション強化や、グローバル技術情報基盤(PDM:製品データマネジメントシステム)の導入が必須となる。

[4]受注力強化とCRM(顧客関係管理)
 製造業においてもCRM(顧客関係管理)がより重要性を増している。日本の製造業界では、社会インフラ事業が比較的好調だという話をよく聞くが、この社会インフラ事業の特徴は、製品売り切りではなく、製品納入後も保守契約を行いながら次のビジネス展開を図っていける点にある。非常に人間的なビジネスともいえる。つまり、製品を売り切るだけでなく、次のビジネスにいかにつなげていくか。一度契約した顧客を囲い込み、ロイヤリティーをいかに高めていくか、がより重要なテーマとなっているのだ。

 また筆者は、受注力強化については、CG(コンピュータ・グラフィックス)を用いた提案・訴求がより重要になっていくと考えている。従来は、自動車などコンシューマ製品分野で多く用いられていた手法だが、今後は企業間(B2B)の商談においても、その利用機会が増加するのではないだろうか。この背景にはCG技術の急速な進展がある。映画などのCG技術の進化はよく知られている通りだが、同時に製造業分野でも展開が始まっているのである。

 筆者は、このような4点こそが、日本製造業の生き残りのために強化すべきプロセスであろうと予想している。次回以降、いよいよ本連載の主題である、ものづくりプロセス改革の功罪(効果と課題)について考察していく予定である。特に、多くの企業で取り組まれている、3D設計やモジュラー設計についてフォーカスを当ててみたいと思う。